第23話 予選 準決勝 後半




 後半に入る前のハーフタイムだ。試合に出ていたメンバーはこの間でミーティングをしつつ、体を休める。


 コートでは試合に出なかったメンバー––––俺も含めて–––––がシュートを打ったり、ドリブルをしたりして、試合にいつ出てもいいように準備をする。


 やがて集合がかかる。監督の元に集まる。


「伊織、頼むぞ!」


 …………?!


「え? あ、はい!」


 え、まじで?

 準決勝で? 俺? 


 ……いや、そんなこと言ったら、そもそもなんで監督がレギュラーメンバーに俺を選んだのかって話になる。


 俺にはスリーポイントシュート以外にこれといった武器がないように思う。

 決めなきゃいけない。

 おっと……いかんいかん。難しく考えない。自分のプレーを、だ。


 監督の話を聞いて以来、たびたび自分に言い聞かせている。


 なんだか緊張がおさまってきた。うん、大丈夫。


 ハーフタイムは終了し、試合は後半戦に入る。


 ベンチでは着ていたTシャツを脱ぎ、ユニフォーム姿に。

 この腕がスウスウする感覚がいつまで経っても新鮮だ。


 先輩たちと並んでコートに入る。


 ヤベェ、また緊張してきた……。

 適度にするのは良くても緊張しすぎるのは良くないからなぁ……。


 スーハースーハー。

 よし、頑張ろう。


 俺たちのボールから試合は再開する。俺は審判の人からボールを貰って、コートの筒井先輩にパス。そして俺にボールが返ってくる。戸惑っている間に筒井先輩はそのまま走っていってしまった。


 ……俺がガードすんのかよ……! 

 筒井先輩の方が上手いんだから、筒井先輩がやればいいのに……って、あ、そっか。


 よくよく考えると筒井先輩は本来ポイントガードではなくシューティングガードだったはずだ。

 テレビでウィンターカップを観戦したが、その時の筒井先輩のプレーは明らかにシューティングガード。点をバンバン取りに行っていた。

 俺が入部していた時にはもうすっかりポイントガードが板についていたから特に気にならなかった。ウィンターカップが終わってからのあの短期間で筒井先輩はポイントガードの技術をあっという間に身につけてしまったというわけだ。


 で、筒井先輩は俺にガードを任せた。暴れるんだろうな……。


 ていうか俺がシューティングガードなんだけどな……。まあ、いっか。


 筒井先輩を中心に攻めてみよう。

 幸い前半では筒井先輩がポイントガードに徹していたのでボールを持っていないとディフェンスのマークは若干緩い。


 ゴール下の河田先輩がニヤリと笑った。そうか、そういうことかとでも言うように。


 コーナーにいた筒井先輩はセンターサークルあたりにいる俺に向かって走ってきた。ディフェンスは隙を突かれたのか一歩分も遅れている。

 筒井先輩は笑っていた。獣が攻撃対象を見つけたような顔で。


 すかさずパスを出す。受け取った筒井先輩は、ミート(パスを受ける時にする動き)もなしに中へ切り込んで……いや、違うな。飛び込んでいった。

 まるで荒ぶる野獣である。カバーが出てきて、二人の大柄なディフェンスに取り囲まれてしまった筒井先輩。


 植原先輩も「へいっ」とボールを戻して攻め直すように言う。しかし、筒井先輩は華麗なドリブルで二人の間をうまくすり抜けていってしまった。


 ……なんだろう、ガードをやっていて身についたであろうハンドリングがものすごい際立っている……。


 そしてそのままダブルクラッチを繰り出した。当然のようにボールはリングの中に吸い込まれる。


 このプレーで完全に会場は火がつく。


「うおおおおおお!!!!!!!」

「やってくれますな筒井!!」

「いいぞー!!!!!!!!」


 大盛り上がりだ。


 筒井先輩はニヤリと笑いながらディフェンス。


 あの笑い、なんか調子狂うぞ……。いつもの筒井先輩に戻ってはくれないだろうか……。


 だが、あの筒井先輩のプレーで明らかにこちらのチームへ流れが来ている。

 このままリードできるだろうか。


 相手は相変わらずスローペースだ。


 だが、今の筒井先輩はまさに野生動物である。本能が働いたのかどうかは本人に聞かないとわからないが、超人的なスピードでボールをカッティングした。


 そのままゴールに突っ込んだ。


 これで38ー32。少しのリードを奪った。

 だがまだ足りない。


 もっと引き離さないといけない。

 だが、相手はここまで上がってきているチームだ。簡単には点差はついてくれない。


 見事なパス回しであっさりミドルシュートを打たれた。


 38ー34。


 絶対に勝つんだという強い信念を持ってオフェンスに走る。


 筒井先輩があのモードなのでガードは基本的に俺だ。


 ペースを整えつつ、全体を見る。


 そしてセンターサークル辺りからロングパスを、ゴール下の河田先輩に届ける。


 河田先輩は腕を伸ばしてキャッチして、そのままリングに叩き込んだ。


 いわゆるアリウープである。



 筒井先輩の時に続いて会場が湧く。


「よっしゃー!!!!! いいぞ!!!!!」

「いいぞ! いいぞ! か・わ・だ!!」


 40ー34。


 シーソーゲームは避けたいところ。ディフェンスが大事だ。


 ゾーンディフェンスに切り替え、守備をする。

 相手もハイペースでボールを回し、攻める機会を窺う。


 そして、相手は焦ったかシュートを打ったものの、外れる。


「速攻!!」


「おうよ!!」


 リバウンドをしっかりと掴み取った河田先輩が声を張り上げる。

 俺と筒井先輩は競走するように相手コートに突進する。


「ウラァァァァ!!!!」

「フンヌゥゥ!!!!!!!!!!!」


 河田先輩が放り投げたパスはちょうど俺と筒井先輩の中間あたりに飛んでくる。


「俺が決めてやるっ!!!!!!」

「俺だっ!!!!!!!」


 結果先にボールを取ったのは俺。

 慎重にゴール下のシュートを決める。


 42−34。


 だが、こんなプレーをされて黙っているような相手じゃない。


 もっと点差を開けるためにも一回一回のディフェンスを大切にしよう。


 ……と、ボールがコートの外に出てしまったタイミングで相手の選手が交代する。


 出てきたのはシューターだ。確証はないが、以前に試合を見たことがあり見覚えがあるので多分この人だ。


 この人やたら決めてくるんだよな……。


 嫌な気分になったが、やることは変わらない。全力でプレーである。


 早速相手はシューターにパスを回した。


 ……いや、見え見えすぎるだろ……!!

 余裕でブロックでき––––。


 スパッ



 …………え?




 恐ろしくシュートモーションが速い。ブロックに飛んだ時にはもううち終わっていた。しかもそれで確実に決めてくる。

 やばい……。



 そして切り替えて攻撃だが、うまく攻めきれず、再び相手のオフェンスを阻止する側に。


 それからまたもやシューターにパスが回る。


 今度こそ止めてやる……!!






 しかし、無常にも振り上げた手は何にも触れることはなく。




 スパン




 自分が決めた時には気持ちのいい音で、相手が決めた時には気が重くなる。


 ネットの音がした。



 42ー40


 二点差。




 ***




 直後たまらず監督がタイムアウトを請求。


 ゲームが止まった時点でタイムアウトを取ることになった。



 ベンチに集まったが、監督の表情は重い……というよりチームの雰囲気が重い。

 ただ淡々と水分補給をしている。


「あの、あと二十秒です……」


 マネージャーの先輩が小さく言った。


「お前ら……」


 ようやく口を開いた監督。そのセリフには怒気が含まれているように感じた。


「お前ら……。全国優勝が目標じゃねぇのか……?」


 …………。


 沈黙が流れる。


「全国優勝を目指して練習してきたんじゃないのか……? 今その練習の成果を発揮せずしていつ発揮する? 点差はついてないんだぞ? 負ける可能性だってある! 気合を入れろ!! 全力でプレーしろ!! 手を抜くな!! 勝て!!」


 監督が言い切った直後、ブザーが鳴った。


「「「「「「おお!!」」」」」」



 ***




 コートに出ながら話をする。


「ディフェンスは河田があのシューターについた方がいいんじゃねぇのか?」

「確かにな……」

「その方がいいだろうな」


 俺がついているよりも、よりシュートブロックの確率が高い河田先輩がついた方が守れるってものだ。そもそも身長で威圧感も感じさせることができるだろうから、明らかにその方がいいだろう。


「監督の話も全て脳味噌に保存しとけよ。ブックマーク付きな」

「了解です!!


 こちらのボールから試合再開だ。


 相変わらず俺がポイントガードである。


 ……若干ディフェンスが近い。シュートを警戒されている。

 ならば……。



 俺はドライブを仕掛け、ゴールへ向かう。ディフェンスは、俺に近づいていた分抜かれたら追いつきにくい。置き去りだ。


 しかし、あっという間にカバーディフェンスが入る。


 それも想定内である。


 俺はボールを上に投げた。


 河田先輩が同調して跳ぶ。


 アリウープだ。


 河田先輩はボールをしっかりと叩き込んでくれた。


 壊れるんじゃないかとばかりに音が鳴ったバスケットゴールが揺れている。


 そして、会場も大歓声が響く。


「いよっしゃぁー!!!!!!!!!!!」

「河田!! 河田!!」



 44ー40。



 これで確実に流れは引き寄せられた。


 ディフェンスに移行すると、河田先輩がシューターをマーク。するとシューターにはボールがあまり回らなくなった。


 河田先輩を恐れてシュートが打てないみたいだ。


 俺だって練習で河田先輩にマークされるとシュートは打てない。というより打ちたくない。ほとんど叩き落としてくるからだ。某有名バスケ漫画のレッドツリーさん(わからない方すみません……。でもこの作品を読んでくださっている方は大体ご存知かと思われます)を連想させる。


 結果的に相手は二十四秒以内に攻撃を終えることができず、こちらのオフェンスに。



 その後、こちらは順調に得点を重ね続けた。


 相手はシューターも使えないので攻め切ることができなかった。



「「「「「5!!」」」」」


「「「「「4!!」」」」」


「「「「「3!!」」」」」


「「「「「2!!」」」」」


「「「「「1!!」」」」」


「「「「「よっしゃぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」」」」」


 川島高校のベンチメンバーは全員立ち上がった。


 チーム全員が天に拳を突き上げながら叫び、喜びをあらわにした。



 57ー45。


 川島高校、準決勝勝利である。






 そしていよいよ舞台は決勝リーグへ……!!




____________________________________


読んでくださりありがとうございます!!


なんかありきたりな展開になってしまった気がしなくもないです……。

っていうか僕の文章力の無さが原因です。申し訳ありません。



また、次の更新はしばらく後になってしまうかと思われます。


その時まで気長にお待ちいただければと思います。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る