第24話 予選 決勝リーグ 一戦目

 



 準決勝のときにも使った体育館だが、改めてかなり広いと感じる。もはや「プロが使ってるんじゃないか……?」と思えるくらい立派な会場だ。


「や、やっぱすげぇ……」

「すげぇっていうか……もう圧倒されるな」


 俺が呟くと、続いて江川先輩が言った。


「いやー、何度も来てるけど、いまだに慣れねぇな」


 江川先輩をはじめ先輩たちは去年も一昨年も準決勝、決勝の舞台に立っている。それでも会場の大きさは慣れないようだ。俺としてもなれることはないと思う。


 俺たちの県はインターハイに二校出場できる。四校でリーグ戦を行い、上位二校がインターハイに出場できると言う流れになっている。つまり決勝リーグでは三校と対戦し、最低でも二戦は勝ち抜かなければならない(本当は勝ち点などのルールもあるのですが、分かりやすくするためにこの作品では割愛させていただきます)。


 争うのは川島高校、練習試合を行ったこともある泉浦高校と海原高校、そしてあまり名前を聞かない千島学園高校だ。

 正直言ってどこが勝っても負けてもおかしくはない。

 なぜならば、予選のデータを見る限り、当たり前ではあるが泉浦高校も海原高校も、練習試合の時よりも強くなっているし、千島学園高校に至っては決勝初進出の上、これまでかなりの差をつけて勝ってきている。


 だが、もちろんウチが負ける気はさらさらない。


 絶対に勝つ!!



 ***



 初戦は海原高校が相手だ。

 練習試合では勝利した相手だが、期間が空いている。

 この期間で戦術は簡単に変えることが可能だし、レベルも当然上がっているはずだ。予選トーナメントでの試合を見る限りでは戦術は大きく変わっていないようだが油断はできない。

 ウチへの対策として特殊な戦術を用意しているかもしれないのである。


 初めて戦う相手のつもりで試合へ臨む。



 アップもいつもより気合が入っている。……いや、気合が入っているのはいつものことなのだが、今日は会場の大きさもあってかいつも以上に盛り上がっている。


 いいことなのだが、ここで燃え尽きないようにはしないといけないだろう。


 アップを終え、河田先輩の集合がかかる。控室で円陣を組む。


「いいか、一度勝っているとはいえ、決して油断はできない。決勝リーグまで上がってきているんだ、絶対に油断するな!」


「「「「「おう!!!」」」」」


 控室から出て、ベンチに入る。


「スターティングメンバー発表するぞー」


 俺たちをリラックスさせるためか、監督はいつもどおりにゆるい調子で言った。


「河田、植原、筒井、江川、夏川で行くぞ。気合入れろ!」


「「「「「はい!!」」」」」


「さあ行け!!」


 試合が始まる。


 ***


 ジャンプボールはいつもどおり河田先輩が担当する。

 よほどの相手でなければあのジャンプ力で負けることはないと思う。


 やはり河田先輩が制したボールは、筒井先輩に回り、こちらのオフェンスからスタートだ。


 いつものように速いパス回しで攻める。


「ヘイ」


 植原先輩が自慢の敏捷力でディフェンスを交わし、中に走り込みながら筒井先輩を呼ぶ。


 筒井先輩もそれを見逃すことなく絶妙な軌道を描くパスを植原先輩に通す。

 まさに天才的だ。


 植原先輩がボールを受け取りレイアップシュートの体勢に入る。


「見逃すかぁ!」


 相手のセンターが植原先輩をブロックしにかかる。


「見逃してんのはお前だ!」


 レイアップシュートの体勢からフリーになっている河田先輩にボールが渡る。


 慌てて近くにいた相手がカバーに入るが、河田先輩のジャンプの最高点に達する速さはコート上の誰よりも速い。


 河田先輩は豪快なダンクをリングに叩き込んだ。


「「「「うわぁぁー!!!」」」」

「ナイスプレー!!」


 ダンクというのは不思議なもので、そのプレイだけで会場やベンチ全体を盛り上がらせ、チームに勢いを与えてくれる。


 先制点の取り方としては完璧な形であると言えるだろう。


 その後も最初のプレーが功を奏したか、こちらの勢いは止まらない。


 江川先輩も今日はめちゃくちゃ調子がいいようで、ここまで三本スリーポイントシュート、五本ミドルシュートを放っているが、一本も外していない。

 植原先輩はいつもどおり鋭いドライブや抜群の運動能力を活かしたプレーで確実に点を重ねる。

 夏川先輩や河田先輩もゴール下で争い、リバウンドを取り、シュートを決めている。


 スタメンは最高の状態で戦っている。


 ただし、相手も決勝リーグまで上がってきた相手だ。点を重ねてくる。


 結果、第2Qを終えた時点で38−29でこちらが9点リードとなった。



 ***


 ハーフタイムを終え、後半が始まる。


 相手からオフェンスでスタートだ。


 相手はスリーポイントシュートを決めた。


 こちらが攻めようとした時だ。


「何……?!」

「お、オールコートプレス……だと?!」


 相手はオールコートプレス(前線:相手の攻め始めからプレッシャーをかけにいくゾーンディフェンスのこと。オールコートで相手につくのでめちゃくちゃ疲れる)を仕掛けてきた。

 監督も驚きの声を上げている。


 よく見ると前半とはメンバーが代わっている。

 対してこちらのメンバーは当然前半の疲れが溜まっている。


 パスカットされて、追加点を決められる。


 相手のコートまで辿り着いても、その前に相手を躱すのに疲弊し、思うように攻めきれていない。シュートも落ちやすくなっており、リバウンドも取れなくなってきている。

 悪循環に陥っていた。


 あっという間に2点差まで追いつかれる。



「……伊織、武田、木下、平塚、相川、交代してくれ」


 突然出番が来て驚く。


 だがやるべきことはやらねばならない。自分のできることを、自分のプレーを、だ。


 ……行くぞ!



 ***



 メンバーチェンジが行われた。


 最初は俺がパスを出す。


 あと15分、疲れはない。走りきれる!


 武田にパスを出す。


 パスを受けた武田は素早くドリブルを開始し、強引に切り込んでいく。

 相手も武田のスピードについていけず、置いてけぼりだ。


 オールコートでついて疲れている相手と、今出たばっかりで運動神経抜群な武田では、武田が勝つのも当然だが。


 武田は無理矢理にボールをリングに押し込んだ。


「4点差っ!」


 気合いのこもった声を上げながら武田が走っていく。


「ディフェンスしっかりいくぞ!」


 木下先輩がパスカットに成功した。


「走れ!!」


 真っ先に走り、俺はボールを受け取った。


 そのままレイアップを打ち、点差を広げる。


 少し流れを取り戻した俺たちはディフェンスをしっかり行い、相手に追加点を許さない。



 すぐにオフェンスに切り替わる。


 ハーフコートオフェンスで攻めるが、相手も気合いの入っているディフェンスをしてくる。


 ついに俺にチャンスが回ってきた。


 スクリーン……!


 木下先輩がスクリーンを仕掛けてくれた。フリーになる。


 見逃さず武田がパスを回してくれる。


 スリーポイントシュートを放つ。



(決まった……!)


 スパッ……。


 静かにボールはリングを通る。



「よっしゃぁ!!」

「ナイスシュート!!」


 俺としては、ダンクに負けないくらいスリーポイントシュートだって盛り上げる力があると思っている。



 勢いを得たこちらはそのままゲームを走り抜けた。


「3,2,1!!」


 ビー!


 ゲームを終了する合図のブザーが鳴り、同時に俺たちの勝利を告げた。


 78ー60。


 川島高校に一勝が記され、海原高校に一敗が記された。



______________________________________


読んでくださりありがとうございます。


なんか久しぶりすぎて慣れません。


おかしいなと思ったところがあれば是非お願いします。

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