第22話 予選 準決勝 前半




 準決勝である。

 トーナメントはここまで、決勝リーグに進むには絶対に勝たないといけない試合だ。

 相手は前々から分かっていた通り北川大学附属高校が準決勝まで上がってきた。

 毎年接戦を繰り広げる強豪の相手だ。

 試合会場に行く電車に乗っている時から先輩たちはピリピリしているし、それよりも緊張しているのが感じ取れた。

 筒井先輩に至っては般若心経を唱えまくっていた。意味があるのかは知らない。

 後に聞いたところ筒井先輩の親戚が神職をしているらしい。


 試合会場につくと、同じタイミングで北川大学附属高校バスケ部の団体も到着していた。

 河田先輩が相手のキャプテンとガッチリと握手を交わしていた。


「よう!! 今年も負けねぇぞ!」

「よぉ。こっちこそ、今年こそは勝ってやるからな!!」


 お、おお……。なんか熱い。背景に燃え盛る炎が見えるよ……。


 周りの人たちも変な目で河田先輩たちを見ている。

 まあ、それだけバスケにかける思いは強いと言うことだろう。


 うん……。絶対負けたくない!!

 ……俺が出れるかどうかは分からないけど。


 握手をしていた河田先輩たちは最後に挨拶をして別れた。


「っしゃあお前ら!! いくぞぉぉぉぉ!!」


 大きな声で河田先輩が喝を入れる。


「「「「「おおぉぉ!!!!」」」」」


 みんなで右手を突き上げそれに答えた。


 勝つぞ!!


 ***


 荷物を置いて、アップに向かう。

 これまで以上に緊張していて、油断したら腹痛を起こしそうだ。


 しかしトイレにこもっているわけにはいかんのだ。気合を入れないと……。


「どうした伊織」


 声をかけられて目線を上にあげると江川先輩。シュートがとても上手い先輩だ。


「どうしたって……何もないっすよ。いきましょう!」

「緊張は誰でもするぞ」

「……」

「俺だってする。当たり前だ。よっぽどの超人とか、自信がある奴以外はいつもこういうとき緊張すんの。あそこにいる余裕そうな河田だって、ちゃんと緊張してるんだ。みろ。貧乏ゆすりを始めた。あれはあいつの癖だ。緊張した時はいつも足が揺れてんの」

「は、はぁ……」

「みんな緊張するんだって。それは相手チームも一緒。あとはいかにその緊張を和らげるか、だ。方法はいろいろある。深呼吸なんかは俺もよくやるぞ。こうやってな、鼻を–––––」


 教わった方法を真似したら幾分か腹痛が楽になった。


「ありがとうございます!」

「俺と交代して出るかもしれないんだからな! 頑張れよ!」

「うっ。江川先輩のその発言で大きなプレッシャーが肩に……」

「ハハハッ。はい、しんこきゅー!スー……。ハー……」


 こんなやりとりをしつつフロアに向かった。


 ***


「うわー、準決勝となると体育館も立派だなー……」


 武田が呟いている。


「そりゃ、準決勝だもん。舞台は相応じゃなきゃな」


 俺もそういうが、本当に立派な体育館だ。決勝のリーグ戦もここで行うらしいが、無駄に天井は高いし、照明は眩しいし、観客席はたくさんあって人いっぱいだし。とにかく広いし、こんなコートでプレーできるかもしれないのかと思うと、ちょっと感動する。


「わぁ!!!!!」

「「うわっ!!」」


 感動しているところに後ろからいきなり声がしたので、誰かと思ったら筒井先輩だった。


「びっくりさせないでくださいよ……」

「心臓に悪い……」

「ハハハ! 俺の勝ちだ!!」

「なんの勝ちですか……」


 試合前からこれである。大丈夫かなと思ったが、あれはあれで筒井先輩なりに緊張をほぐそうとしてくれたのではなかろうか。やっぱいい人じゃねぇか……。



 アップではシュートの調子も良かった。もし出れたら決められる自信はある。何気に俺の高校バスケ初の大舞台じゃね?!

 出れるかは知らないけどさ。


 そんなこんなでアップは終了。


 水分を摂ってから円陣だ。


「いいかお前らぁ!!」


 河田先輩が喝を入れる。


「「「「「「おおおお!!!!」」」」」」」


「これで勝たなきゃ俺たちは終わりなんだ!!!」


「「「「「「…………」」」」」」」


「絶対絶対絶対絶対勝つぞ!!!!!!!!!」


「「「「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」


 相手チームも円陣をしているので、負けないように大声を出す。


 気合は十分。気持ちも十分。


 あとは全力でプレーするだけだ!!


 ***



 ピー!!


 笛が鳴って、試合が始まる。


 スターティングメンバーはいつもの通りに河田先輩、植原先輩、筒井先輩、江川先輩、夏川先輩。


 相手も番号が4、5、6、7、8と続くあたり本気のメンバーと見て間違いなさそうだ。


 ちなみにうちのチームは番号が変則的なので全く参考にはなりません。さっきの紹介順に行くと4、5、00、1、14。キャプテン副キャプテンは4番と5番でなくてはいけないが、他の人は好きな番号を選んでいいので、こんな風になっている。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 いつもの挨拶の数倍気合のこもった声が五人分。


「「「「「お願いします!!」」」」」


 少し遅れて相手のチームも挨拶してコートに入る。去年負けている相手のチームはうちのチームよりも闘気の入った声で挨拶をした。


 そしてセンターサークルあたりで、向かい合ってもう一度挨拶。


「気をつけ、礼」


 審判の人が言って、「お願いします」と挨拶。


 ここまでは毎試合やる行為だ。だが、いつもと違うのはお互い気合が入りまくっていることだ。かくいう俺も気合が入っているわけだが。


 それからセンターサークルの周りでジャンプボールの準備。


 場所を取り合ってせめぎ合っている。

 最初が肝心なのだ。


 そしてセンターサークル内の二人が跳んだ。


 ボールはなんと相手が弾いた。河田先輩が負けたのか……。珍しい……。


 ジャンプボールを担当した相手選手は1m98cm。河田先輩よりも高い。それに加えてあのジャンプ力。なかなか厳しい。いつもは勝てる河田先輩が負けてもおかしくはないのだろう。


 弾いたボールはしっかり相手のポイントガードに。

 割とスローペースで攻めてくる。


 相手のセンターがゴール下から出てきて、筒井先輩にスクリーンをかけた。相手のポイントガードがフリーになり、中に攻め込んでくる。

 急いで夏川先輩がシュートブロックに出るが遅かった。

 相手のポイントガードはふわりとフローターシュートを打った。

 しっかり決めてくる。



 切り替えてオフェンスだ。悔しがっている暇はない。二点など序盤において大した差ではない。しっかりオフェンスをして、リードできれば大丈夫だ。


 筒井先輩がボールを運ぶ。パスをまわして、相手の様子を見る。


 バスケは二十四秒以内にシュートを打たねばならない。これをショットクロックという。

 筒井先輩はショットクロックの表示を見つつゲームをコントロールしている。


 ショットクロックの表示が7、つまり後七秒となった時。

 ボールはコーナーにいる江川先輩に渡った。


 江川先輩は迷わずスリーポイントを打つ。それと同時に、ディフェンスが江川先輩の体を押した。


 入ればバスケットカウント(オフェンスがシュートを打っているときにディフェンスがシュートを打っている人にファールをし、なおかつシュートがゴールに入った時のこと)だ……!

 つまり四点プレーである。


 ボールは……?



 スパッ


 しっかり決まった。


「バスケットカウント、ワンスロー!」


 審判がコールしているのを見つつ、ベンチ、そして観客席が大いに盛り上がる。


「ナイス江川ぁぁあ!!!!」

「いいぞー!!!!!!!」


 本当は試合の終盤に決まればよかったのだが、なかなかそういうことは起こらない。

 だが大きく流れをこちらに引き寄せるプレーだった。


 江川先輩はその後のフリースローもしっかり決める。


 これで4ー2。こちらがリードだ。



 相手は切り替えて攻めてくる。


 今度はセンターを使ってきた。ジャンプボールも担当した大きな選手だ。

 センターにパスが回ると、そのままゴール下のシュートを打とうとした。が、夏川先輩と河田先輩のディフェンスがつく。

 二人がかりでディフェンス、しかも全国トップクラスの選手にディフェンスされるとシュートは難しい。

 やむなくポイントガードにボールが戻される。


 ポイントガードが自分でスリーポイントシュートを打った。

 しかしこれはゴールに嫌われてしまった。


 リバウンドを取った河田先輩が、前方に走っている植原先輩にボールを投げた。


「植原ぁ!!!」

「おうよ!!」


 三年間一緒にいた二人の連携は確実だった。


 植原先輩はフリー。ゴールに走っていく。


 このままダンクか?! …………と思ったら、普通にレイアップをした。


 ……。


 せっかくならダンクしてほしかった。


 でも、これでよかったのかもしれない。前半で体力を使い果たすのはどうかと思うから。



 すぐにディフェンス。


 相手もそんなに甘くない。決めるところはしっかり決めてくる。


 相手のフォワードが、フリースローラインでフェイダウェイのミドルシュートこれが綺麗に決まる。見惚れるような綺麗さだった。



 そんな感じで接戦が続く。


 点を取っては取られ、シュートが外れたら決められ、と試合がすすむ。


 そしていつの間にか第2Qが終了。声が枯れるほど必死で応援していれば、あっという間に時間が過ぎる。


 現在34ー32。二点差で、かろうじてこちらがリードしている。これくらいの点差だと試合は簡単にひっくり返る。


 勝負は後半、疲れてきたところでどれだけ頑張れるかだ。


____________________________________



読んでくださりありがとうございます。

勝負は後半戦、次話に続きます。流石にこの1話には収められる気がしなかったので……。次回からも引き続きよろしくお願いします。



お知らせ


「Swishースウィッシュー 〜番外編〜」を公開しました。


質問


中学時代のメンバーにざまぁとかあったら読みたいですか?

一応構想だけはありますが、そういうのはいらないって言う人が多いのかな……と思ったり。書くのなら「Swishースウィッシュー 〜番外編〜」の方に書かせていただきたいと思いますが、意見を聞かせて欲しいです。



……あとがきのボリュームが……。

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