閑話 母の思い、伊織の過去
試合ばかりなのもどうかと思うので、ちょっとだけ閑話を挟みます。
閑話はカクヨム限定となっています。
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親の気持ちなんて、自分が伊織側の立場ですのでわかりません。じゃあ書くなという声が聞こえてきそうですが、想像で突っ走ります。ご容赦ください。
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※英太郎=伊織
息子の英太郎がバスケをやりたいと言い出したのは確か小学二年生の時だった。
夫もいいんじゃないかという事で、早速地域のクラブチームに入会し、バスケを始めた。
もちろん親も水筒や弁当を用意しなければならなかったし、試合の時にも応援に行ったりとなかなか忙しかったが、英太郎が本当に楽しそうで生き生きしていたので、全く苦ではなかった。
親バカなことを言うが、うちの息子はバスケが上手かったようで、あっという間にレギュラーになった。中でもシュートが得意だったようで、試合に出てはシュートを何本も決めていた。試合に夫と見にいき、英太郎がシュートを決めるたびに手を叩き合って喜んだものだ。さすがうちの子だな、と。
小学校六年生になると、キャプテンになった。四番のユニフォームを来て走り、跳んで、シュートを決める英太郎は本当にすごかった。
ある日の夕食の時に「お母さん、俺中学でもバスケやるよ!!」と言っていた。
その時にはもちろん応援するよ、と言ったし、夫も喜んでいた。
そうそう、英太郎の影響で夫は学生の頃やっていたバスケを再開したようで、近所の公園によく二人でバスケをしに行っていた。
そして中学に入った英太郎は早速「入部届にサインちょうだい!」と入学初日に入部届の紙を渡してきた。
ちょっと呆れながらサインしたことを覚えている。と同時に、「塾にも入るよ」というと、「ゲー?!」と言っていた。
だが、入部して練習に行くようになると、だんだん英太郎の顔は暗くなっていった。勉強はしっかりやっているし、テストの結果も良かった。何が英太郎の顔を暗くする原因に? と思い、英太郎に聞いたが、はぐらかされて答えてくれなかった。
中二になってますます疲れた顔を見せるようになって、たまらず再度「何かあったの」と聞いた。
あんなに入部届を持ってきた時にはキラキラした笑顔をしていたのに、一体何があったのか。
ぽつりぽつり、と英太郎が話を聞かせてくれた。
話によると中学校のバスケ部の環境は最悪だったようだ。あまりにも暗い顔を見せる英太郎が心配で、転校や地域のクラブチームに入ることも考えたが、それは伊織がダメだと言った。
「俺が中学のバスケ部を変える! 転校してしまったら俺が逃げて見たいで嫌だし、何より友達もいるから。バスケ部は俺が変えてやるんだ!」
決意に満ち溢れた英太郎の顔は暗くても、目は輝いていたように思う。
「母さんは英太郎だけを応援するよ」と言うと、「うん、頑張る」と言った。
この頃から、英太郎の部屋に、勉強本に混じってチーム作りがどうのとか協力するには? みたいな本が現れてきた。勉強の合間にしっかりそちらの方にも取り組んでいることが分かって、頑張ってるなぁ、と思った。
中学校でもキャプテンを務め、試合でも活躍していたが、見に行った試合で全てが分かった。チームメイトはふざけているし、やる気はない。頑張ってるのは英太郎だけのように見えた。
キャプテンとしてチームを変えようとしていたが、結局チームは変わらなかったらしい。引退した英太郎の顔は悔しそうだった。
そして、高校受験の勉強に移った。バスケ部のことは全て忘れて、新天地に向けて勉強する。
友達にはちゃんと恵まれていたみたいで、勉強しに行ってくると出かけていくこともあった。よほど頭のいい子なんだろうなと勝手に想像していた。
近くにあるバスケが強い川島高校に進学を決めた英太郎は、必死に勉強していた。
私立の高校ということで、お金は多少かかるが、夫も了承した。
何より楽しそうにバスケをする英太郎が一番大事だったから。
勉強して勉強して勉強して、英太郎は合格をもぎ取った。
合格発表の日、家でいまかいまかと英太郎の電話を待っていた私たち夫婦は、電話が鳴った瞬間スマホをとって、電話に出た。合格の旨を聞いた私たちは抱き合って喜んだ。
そして高校でまたバスケを続ける英太郎は、とても疲れて帰ってくるようになった。だが、その顔はとても楽しそうで、ほっとした。
そして、ゴールデンウィークには合宿もあった。
合宿から帰ってきて、「お母さん、いつもご飯作ってくれてありがとう。この合宿でご飯を作るのがどれだけ大変か分かったよ」と言われ、思わず泣いてしまった。
そして、試合の時期がやってきた。
なんと英太郎がメンバー入りしたらしい。あの強豪高校で、だ。夢のようで、夫と共に喜んだ。
そんな英太郎は今日も試合だ。
順調に勝ち進んでいる。
いつもバレないように試合を見に行っているが、なんか凄い。中学校の頃よりチームメイトが凄い。
何も心配はいらない。安心だ。親として心底ほっとした。
そして母は今日も試合に応援に行く。
「頑張れ、英太郎」
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