閑話 武田・伊織の受験勉強
【主に武田視点】
(時系列としては、伊織たちが中学三年、10月ごろのイメージです)
心地よい空気が流れる日曜の昼下がり。伊織が川島高校に行くと知ってから、俺は死ぬ気で勉強していた。
「わ、わかんねぇよ……」
過去問を解いている真っ最中なのだが、難しすぎて撃沈。
「俺、伊織とおんなじ高校いけるのかな……」
伊織と一緒にバスケをしたかったので、俺は伊織と同じ高校に行くことを決めていたが、伊織の行こうとしている高校が頭が良くて、びっくりした。
「あいつ頭よかったんだな……。くっそー」
今更ながら授業中寝ていたことを後悔。
「いやーでもあれは先生が……。あ、先生のせいにしちゃいけねぇな。自業自得ってやつだな……。ともかく、どうしよう……」
途方に暮れる俺。
「悩んでも仕方ねぇ!! 勉強あるのみ!!」
シャーペンを持ち、過去問に向き合う。
「……わかんねぇー」
すぐにゴローン。だめだこりゃ。
「うーん……仕方ない。伊織を呼ぼう」
スマホで電話をかける。
「もしもーしじゃなかった、しもしもー」
『わざわざ言い直さなくてもいいだろうに……。流行ってるわけでもないしさ。なんのようだ?』
「ベンキョー会しよーぜー」
『一言一句同じセリフを昨日も聞いた』
「ベンキョー会しよーぜー」
『俺、そんなにいつもいつも暇じゃないんだが』
「いいじゃねーか……。頼むよー」
『わかったわかった。んじゃ、今から行くわ』
「りょーかい」
電話を切って、受験生らしくシャーペンを手に取り、真剣に過去問と向き合い始めた。一切手は動かないが。
「うーん、わからん」
***
ピンポーン。
一瞬の間があって、
「快さーん。伊織くんよー」
母の声。
ちなみにだが武田のフルネームは武田快斗だ。
武田の母は旦那を(旦那の名前は武田
さらに付け足すと、自分のことは我と呼ぶ。謎すぎる母である。
「はいはーい」
母に返事をしつつトップスピードで玄関まで。
ガチャっとドアを開け、
「いらっしゃい!!」
「八百屋かよ」
伊織が突っ込んでくるが気にしねぇ!!
「上がれ上がれーい!!」
「無駄にテンション高いのやめろ」
なんやかんや言いながら二階の自室に。
「さて、勉強すっぞ」
「えー、ちょっと遊ぼうぜー。な、な、人生○ームとかさ!!」
「ベンキョー会って言ってただろうが!! だいたいなんでそんな時間のかかるものをチョイスしたんだよ! 勉強すんの! 勉強!」
「ちぇ」
「ちぇじゃねぇ」
またまたなんやかんや言いながら勉強会は始まる。
伊織は塾の課題を、俺は過去問に向かってペンを走らせる。残念なことに俺の方は全く手が動かない。
……伊織に聞こう。
「伊織、ここってどうやって解くんだべ?」
「あ? ああー、ここは……。なんだっけ。あ、そうそう、この–––––」
「な、なるほど!! お前天才だな!! 東大いけるぞ!!」
「いかないし、いけねぇよ。だいたいここちゃんと授業聞いてればできるっつーの!! 寝てるから悪いんだろうが!! そもそもそれで東大いけたらみんな東大いくって!!」
「うー、そこまで言わなくてもいいじゃろがい!」
マシンガンのように説教が伊織の口から飛び出てきて怖い。いや、自分が寝てるのが悪いんだが。
その後しばらくは黙々と勉強して、時折俺が質問したりして、プチ説教されて、時間が過ぎる。
「ちょっと休憩にしませんか?」
母さんがお菓子と麦茶の入ったコップが乗ったお盆を持って部屋に入ってきた。
「あ、ありがとうございます」
伊織がお礼を言っているのを横目に俺はさっさとお菓子を掻っ攫う。
「あ、こら快さん!! もう、快さんにはお菓子無しアルヨ!!」
「は、はぁ?」
「あ、つい我の祖国の……」
「母さん。ついとかいうけど、そもそも中国人じゃないでしょ。後それ実際は言ってねえからな」
「そ、そこまで言わんでもええやろが!」
「そこまでってなんだよ! それに関西の人でもないでしょ!!」
「あ、あのー。ここで親子げんかするのやめてもらっていいっすか」
「「すまんアル」」
……やはり親子である。
そして武田はこういう時だけ頭の回転が1億倍に増加するのである。
母さんがお菓子を置いて部屋を出ていった後。
二人でお菓子を食べつつ休憩中。
「なあ武田。お前の母さん癖強すぎるだろ」
「あー、自分でも思うよ。俺が3cmだった頃から母さん俺のこと快さんって呼んでたらしいし」
「……。まあ、それはいいんじゃね」
「自分のことも我っていうし」
「…………。なかなかだよな」
「さっきみたいに急に変な語尾になるし」
「うん……。お前も大概だけどな」
「そうか? 母さんいきなり狂ったように踊り出すぞ」
「…………………………。もはやなんと反応したらいいかわからん」
「まあ、そういう人なのよ、母さんは」
「ふ、ふーん。まあ、楽しそうだしいいんじゃね?」
変な空気になりつつ勉強が再開する。
そしていつの間にか時間は過ぎ去って六時。
「そろそろ帰らないと」
「おお、もうこんな時間!」
「じゃあな」
「え……人生○ームは?」
「お前人生○ーム好きだな!! もう帰るって言ってるだろが!」
時々伊織にはそのツッコミを緩めてほしいと思ったりする。
「ま、バイバイ」
「『ま』ってなんだ、『ま』って。じゃあな。武田の母さんも、お邪魔しました」
「いいえー。またいつでもいらっしゃいね」
「では」
伊織が帰った後、親子げんかが再開するのだが、ここでは語らない。
そして、二人はしっかり川島高校に合格することができたのであった。
____________________________________
読んでくださりありがとうございます!!
閑話はこれでひとまずおしまいです。次回に設定話を挟んで、本編に戻ります。
閑話はまたそのうちに挟まれると思います。
そして、またもや登場人物が勝手に……!
武田の母に、とんでも設定が勝手についてきました。あれー、こんなはずじゃ……。だいぶ変人にしあがっちゃいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます