第20話 予選 参・肆





 少しずつインターハイに近づいていく。次は三回戦だ。

 相手は夕暮ゆうぐれ高校。二回戦の時に一度見ているのでプレースタイルは大体把握済みだ。

 素早いバスケット、いわゆるランアンドガン(速攻の攻撃を得意とするチームスタイルのこと)と呼ばれる戦法で主に攻めてくる。

 それだけでなく、すごいシューターもいる。

 外からのシュートを高確率で決めてくるシューティングガードだ。


 速攻かと思えばペースダウン。そしてスリーポイントシュートと攻撃したと思えば、次にはものすごいスピードで速攻のシュートを決めてくる、厄介な相手だ。


 用心しないと食われる可能性もある。


 ……もしかしたら出番はないかもしれないな……。


 そうこうしていると、あっという間に試合時間が近づいてきた。

 監督からの集合がかかり、スタメンが発表される。


「えー、この試合のスタメンは河田、植原、筒井、平塚。そして伊織だ」


 え?


 俺スタメン?


 ……マジで?


 ……マジか……。


 嬉しいという気持ちと、緊張が入り混じって微妙な気分になる。


「相手の六番は二回戦の時にも見ていると思うが、外からのシュートがよく入る。これを止めたいから、今日は平塚に任せようと思う」


 平塚先輩は185cmと高身長だ。シュートを止められる確率が上がる。


「そして、伊織のシュートでこちらの流れにしつつ引き離していくぞ。さあ、いこう!」


「「「はいっ!!」」」


 頼られているって嬉しい。チームの一員なんだと実感する。

 絶対に決めてやる!!


 気持ちが昂りつつ、アップが始まる。


 スリーポイントシュートを打つ。


 あるあるだが、試合前は一つのゴールに向かってチームメイト全員がシュートを打つので、なかなか打つタイミングが見つからない。


 お、今だ。


 ボールを手で、スナップをかけつつ押し出す。


 綺麗な放物線を描いたのはいいのだが……。


「ガンッ」


 んあ?

 外れたか。


 クソ……次!


「ガン」


 あ、あれ?



 ……俺、調子悪い?


 目の前が真っ暗になった……とはいかないまでも、軽く目眩がする。

 せっかく仕事を任されたのに、何もできない……?


 いつの間にかアップは終わってしまい。ショックを受けたまま試合は始まる。


「「「「「お願いします!」」」」」


 挨拶をして、センターサークルの周りを囲む。


 相変わらずのとんでもないジャンプ力で河田先輩がジャンプボールを制した。

 出だしは上々だ。


 この流れが続くといいんだけど……。


「伊織!」


 うわ、パスが回ってきた……。

 植原先輩特有の回転がかかったボールを取る。


 入るかな……。


 不安になって。


 俺はシュートを打とうとした体勢から、ドライブに切り替える。


 ボールを前に動かした瞬間。


 ボールを取られた。


「あっ!」


 ボールを取った俺をマークしていた六番は、あっという間にレイアップを決めてしまった。


「どんまい伊織」

「切り替えて切り替えて!」

「取り返そうぜ!!」


 ベンチからも、コートにいる先輩からも励まされる。だが、俺の耳には届かない。


 やってしまった……。自責の念に駆られて、その場に蹲ってしまいたくなる。

 だが、試合は続く。何も考えられないまま、オフェンスに走る。


 ボールは回ってくるが、シュートは自信ない、ドライブはダメだ、パス……。

 ただただパスを回すだけ。自分では何もできない。


 今植原先輩がドライブで切り込む姿が見えている。

 俺にはとても無理だ……。ダメだ、何もできやしない。


 植原先輩がファールをもらった。


 ビー


「川島高校、メンバーチェンジです」


 あ、俺か……。

 当然だよな……。


 何もできなかった……。いや、何もしなかった、か……。


 江川先輩(シューティングガード)と交代する。


 ベンチに戻ると、監督が来た。


「伊織、どうしたんだ?」


「えっと、その……」


「まあ、俺は確かに伊織のシュートで引き離そうぜやらなんやらいった。それとは矛盾するかもしれんが、別にいつも通りでいいんだよ。アップ見てたらちょっと今日は調子悪いみたいだが、だからどうしたんだってことだよ」


「……」


「いいか、自分のプレーをしてこい。それだけでいい。チームのためのプレーじゃなくていい。自分のプレーをすれば、それは結果的にチームのプレーにつながるんだから。お前は長距離のシュートが武器なんだろう? だったら死ぬほど打ってこいよ。リバウンドはいくらでも河田や平塚がとってくれるじゃねぇか。それがあいつらのプレーなんだから。積極的にボールをもらいに行けよ。パスを回すのが筒井たちのプレーなんだから。シュートが打てそうになかったらボールは植原に回してしまえよ。切り込んでボールをゴールにねじ込むのがあいつのプレーなんだから。自分のプレーをすれば、誰かが自分のプレーをする。それがチームってもんだ。もっとチームを信じろ。……って、自分でも途中からわけわからんこと言ってんな。まあ、とにかく。いつも通りの伊織でいいんだ。自分のプレーを全力でこなせばいい。結局言いたかったのはそれだけ」


「……はい」


「見ろ。あの六番」


 ちょうど夕暮高校六番がスリーを決めているところだった。


「負けっぱなしでいいのか?」


「……よく……ない、です」


「ならば、俺が何を言いたいか、分かるよな?」


「はい……」


「さあ、行ってこい!!」


「っ。……はい!!」


「交代お願いします」とオフィシャルの人に声をかけ、交代メンバー用の椅子に座る。



 ……そっか、いつもの自分でいいんだ。確かに俺は、チームのために! って思考になっていたかもしれない。っていうかなってた。


 自分のプレー、か。


 コートの中で動き回る先輩たちを見つめながら、監督の話を何度も脳内でリピートする。


 筒井先輩がドリブルをしていて、ファンブルし、コートの外に出た。交代だ。


「川島高校、メンバーチェンジです」



 いくぞ!!


 ***



 そこからの俺はもう全力だ。


 自分のできるプレーを常にフルパワーで。結果スリーポイントシュートの確率もいつもの調子に戻ってきた。


 ビッ


 シュートを打つと、ボールは高く舞い上がって、一直線にリングの真ん中にダイブする。


 入る。

 入る入る入る。


 そして、スリーポイントシュートだけでなく、ドライブからのレイアップも決めた。


 失敗しても、大丈夫。


 妙に安心できて、落ち着いてプレーができた。


 そしていつの間にか時間は過ぎていて、80ー59と川島高校が勝利を収めた。



 ***


 そして、四回戦へ。


 相手は古豪の谷高校。


 現在もいい選手がたくさんいる高校だ。


 三回戦とは違ってこの試合のスタメンはいつもの通り河田先輩、植原先輩、筒井先輩、江川先輩、夏川先輩。


 しっかりジャンプボールを制した後は、流れがずっとこちらにある状態。いい雰囲気で試合ができている。とはいえ、相手も四回戦まで上がってきているわけなので、油断は禁物だ。


 そしてリードを保ったまま第4Qに。


「伊織、武田、いくぞ」


 俺たちが呼ばれた。


 前回の試合での反省も生かし、準備は万端。


「自分のプレー」を全力で。


 監督からもらった、自分の信念ともなるこの言葉は、生涯忘れないだろう。


 そして俺はこの試合で、10分間の間に7本のスリーポイントシュートを決めた。


 最終スコアは79ー56。川島高校が無事勝利した。





 いよいよ舞台は準々決勝へ。



____________________________________


読んでくださりありがとうございます。









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