第19話 予選 弍




 まあ、大体がトーナメントは勝ち進むにつれレベルは上がるものだ。そりゃあ考えたらわかる話だろう。

 というわけで、当然二回戦は少しレベルが上がる。


 去年もそこそこの成績を残している甲良こうら学園高校。

 二回戦の相手である。今年の三年にものすごい点取屋がいることで有名らしい。

 他の人は大して何もないらしく、その話を聞いたときに俺はふと思っていた。


 一人がずば抜けてうまいと勝てるってわけでもないが、中学時代同じようなことを経験してる(自分がずば抜けてうまいとは言っていない)俺としては、去年の成績はその点取屋がいてこそのものなんじゃないか。

 バスケはチームスポーツだってことも、俺は身に染みてわかってる……つもりだ。

 一人が上手かったらいいもんじゃない。全員で勝つからバスケは面白いんだ、と。

 今更何か変わるわけでもないし、俺がスタメンで出るわけでもない、そもそも出れるかすらわからない俺如きが何言ってるんだって思うが、バスケの面白さを感じてほしい。


 ……何言ってんだろ、俺。


 と、そんなことを考えながら二回戦の会場へ向かう電車に揺られていた。


 電車の中は通勤ラッシュの時間帯を少し過ぎたところで、まだ人は多い。座ることはできず、立ったままだ。

 そして、会場となる体育館の最寄り駅に到着。

 電車を降りようとしたら、たくさんの人が一緒に降りた。


 …………?


 もしや、試合を見に来た人たち……?


 ものすごい人数だ。明らか予選二回戦を観に来る観客の量じゃない。


「なんだ? この人数は……」

「す、すげぇ人いる……」


 河田先輩や筒井先輩も困惑の声。


 しかもよくよくみたら女性ばかり。なぜだ……?


 不思議に思いながら控え室へと向かう。素早く着替えなどを済ませて、用意は完了だ。


 そして、今日は第2試合のため、第1試合を観戦するために二階の観客席に移動する。ここで、次に対戦する高校のデータを集めておくのだ。すでにマネージャー陣はペンを片手に身を乗り出してコートを見つめている。


 席に着くとちょうど試合が始まろうとしているところだった。


 対戦校は、南川高校 対 夕暮高校だ。


「ピッ!」


 ホイッスルの特徴的な音が鳴って、同時に審判がボールを真上に投げる。


 夕暮学園の特徴的なオレンジのユニフォームを身に纏った五番の選手が、ジャンプボールを制した。


 夕暮学園は素早い展開で攻めていく。白いユニフォームの南川高校はゾーンディフェンスで守っている。


 夕暮高校の六番の選手がスリーポイントシュートを打ち、決めた。


 オレンジのシャツの応援団が沸き立つ。


「あの六番、去年もめっちゃスリー決めてたな」


「マジですか?!」


 隣に座っていた筒井先輩がそう言うので、反応する。他校のシューターはどうしても気になるものだ。別にスタメン張ってるわけでもないが、負けたくないとは思う。


「マジだ。なんかすごかったぜ」


「そうですか……」


「でもさ、お前の方が上手いだろ。少なくとも俺はそう思うね」


「……!! ……ありがとうございます」


「お世辞じゃねぇぞ? 本気でお前の方が上手いと思う」


 ものすごく嬉しい。流石に俺の方が上手いは言い過ぎだと思うけれど、でも嬉しい。言ってくれたことが何より嬉しい。


 なんか燃えてきた!

 今日も出れたら決めてやるぞ!


 うずうずしながら試合を観戦し、夕暮高校が勝ったという結果を見届けてフロアーに降りる。


 すぐにアップを始め、体を温める。軽く汗をかいて試合開始1分前。監督の元に集合だ。


「スタメンは前の試合と一緒な。この試合も落ち着いて攻めて、落ち着いて守る。油断は禁物! そしていつものバスケットをしよう!」


「「「「おおっ!!」」」」


 そして円陣。毎試合やることだ。


「いくぞぉぉぉ!!」

「「「「おおおおお!!!!」」」」


 ***


「なんで観客が多かったかやっと分かった」


 コートに出て並んだ瞬間筒井はボソッとそういった。


「ああ……」


 河田もそれに反応する。


 観客が多い理由。それは、甲良高校の七番にあった。


「めっちゃイケメンだな」


 苦々しい顔でそう呟く河田。


 アイドルとかモデルとか、そういう類のことをしてそうなほどのイケメン。そして高身長。

 女性の方々が観客席でキャーキャー言っている。


 しかも、そのイケメンさんが噂の「点取屋」だから困る。

 バスケも上手いのだ。


「くそ……。リア充爆ぜやがれ……」


 玉砕覚悟で学年人気No.1の女子に告白して呆気なく断られた夏川が呪詛を吐くように呟く。が、それは自業自得なのでしょうがない。



 こいつとこの観客を相手に戦わなければいけないのか……。


 スタメン一同は微妙な雰囲気になりながら、試合は始まる。


 ***


「お願いします」と挨拶をして、センターサークルの周りでポジションを取り合っている。


 ジャンプボールは当然のように河田先輩が制した。


 筒井先輩がボールをキープ。相手の様子を窺っている。

 ボールを突きながら、コート全体を見ている。と思うと、ノールックで向いている方向と真反対にいた河田先輩にパス。


 ゴール下にいた河田先輩は勝負を仕掛けた。力強いドリブルを一つ突き、シュート。ボールはリングの中へ。


「ナイシュー!!」

「ナイス!!」


 点が入るたびに沸き立つこの状況は今日も変わらず。

 応援歌を歌いつつ盛り上がる。


「ディフェンス一本!!」

 河田先輩は手を叩きつつチームを鼓舞する。


 甲良高校の七番、通称イケメン野郎がボールを持った。

 ディフェンスは謎に気合が入っている夏川先輩がマンツーマンで担当していた。

 ボックスワン(ディフェンスの5人のうち、4人はゾーンディフェンスをし、1人だけがマンツーマンでディフェンスするディフェンスシステム)で七番を徹底的にマークする。


 噂通り上手い。ハンドリングは一流だ。ドライブで仕掛けてくる。鋭いドライブを繰り出す途端、観客席からは黄色い声が飛ぶ。


 マークしている夏川先輩がイラッとしたのがベンチのここからでも分かった。


 止めてやる止めてやる止めてやる止めてやる止めてやる!!!!!!


 何か念みたいなものが伝わってくる。


 伝わってきた念通り、あっさりボールをスティール。そのままゴールに向かって走り、レイアップ。


「よっしゃー!!」


 夏川先輩は若干甲良高校の七番の方を向いてドヤ顔をしつつ雄叫びを上げた。


 ……甲良高校の七番もちょっとイラってきたのが分かった……。


 その後もボックスワンで守り続ける。七番を抑えてしまえばこっちのものだ。第3Qが半分ほどに差し掛かってきた頃にはもう58対20と、すごい大差がついていた。


 開始時は煩わしいほど聞こえた黄色い声も、もう全然聞こえない。もはや点を決めても盛り上がらないだろう。お通夜みたいな感じになっている。


 対して川島高校勢は最初よりもさらに盛り上がっている。応援歌の熱唱はさらに勢いを増している。


 その状態で……。


「伊織、武田、交代」


「「はいっ」」


 ついにお呼ばれしました。


 ニヤッと監督が笑った。


「…………?」


「伊織、さらに突き放してこいよ」


「……はいっ」


 よっしゃ決めてやるぞ!!


 ビー、とブザーが鳴って、交代だ。


「いけ伊織!いけ武田!」

「決めてこいよ!!」


 応援されながら送り出される。

 最初はディフェンスからだ。


 バッシュの裏を手で擦りながらマークマンを確認。武田は七番をディフェンスするらしい。


 戦意を喪失してしまったような顔の七番が攻めてくる。

 武田は簡単にボールを奪ってしまった。


 そのまま夏川先輩のようにレイアップまで行った。


「ナァイシュー!!」

「いいぞー!!」


 やっぱり盛り上がる。


「ディフェンスディフェンス!!」

「頑張れー!」


「普通のマンツーマンディフェンスでいいぞ」


 監督からの指示だ。

 あっという間にマンツーマンディフェンスに移行。コミュニケーションを取らなければいけないのは変わらないので、声を出してディフェンス。


 ゴール下にいた甲良高校の八番がシュートを打ったが、落ちた。


 リバウンドを取って、オフェンスへ。


 素早くパスを回していく。


 左のコーナーにいると、無駄にかっこつけた武田がビハインドパスしてきた。


 キャッチして、スリーポイントシュートへ。


 いけっ。


 俺の手から飛んだシュートは綺麗な放物線を描き、リングの真ん中に。スウィッシュだ。


「ナァイシュゥゥ!!!」

「いいぞぉ伊織ぃ!!」


 スリーなどは普通のシュートが入った時よりも多少割増で盛り上がる。

 これが嬉しい。



 その後、俺は全得点12点を挙げ、最終スコアは78対29となって川島高校は二回戦も突破。

 次は三回戦へ。


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読んでくださりありがとうございます。

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