第18話 予選 壱
試合のメンバーが告げられていく。
「4番、河田。5番、植原。6番……はいないので、00番、筒井。1番、江川。そして7番、上島–––––」
みんな緊張した面持ちで監督の声を聞いている。
ちなみに番号は、主将、副主将になった人以外は入部時点で自由に決めた番号を引退まで使う。
俺は呼ばれるだろうか。流石に1年だから、呼ばれないか。……1年だから呼ばれないって理由も自意識過剰だ。
でも自分ではめちゃくちゃ頑張った……つもりだ。
「––––40番、川崎」
13人の名前が呼ばれた。
もし……もしも呼ばれるなら……。
「10番、武田」
武田が呼ばれた。
思わず武田を見る。小さくガッツポーズをしている。
14人が呼ばれた。もうあと1人だ……。
「30番、伊織」
そう告げられた瞬間、俺は喜びで頭が真っ白になった。
もう一度、もう一度言って欲しい……。
それぐらいに嬉しかった。というか、まだ信じられない。
「以上のメンバーで今年は戦う。選ばれなかったやつの思いも色々あると思うが、しっかり応援してくれ」
夢見心地で監督の話を聞きながら、今日の練習が終わった。
俺は帰るとすぐに両親にメンバーに選ばれたことを伝えた。二人ともめちゃくちゃ喜んでくれた。
それでもって、夕飯が豪華になった。素直に嬉しかった。
試合の用意をする途中、自分のユニフォームを手に取る。
30番。史上最高のシューターとも言われる有名なNBA選手の番号だ。それだけの理由で三年間の番号を決めてしまったわけだが、それでよかったとも思う。
この番号に恥じないシューターになってやろうと心に決めた。
***
予選初日。
一回戦だ。
相手の高校は南工業高校。
あまり聞かない名前だが、試合前に見た時、かなり大きいチームだと感じた。
みんな身長が高いのだ。ほとんどの人が175cmを超えているのではないだろうか。しかも、一人めちゃくちゃ大きい人もいる。2mあるんじゃ……。
会場となる結構大きい市民体育館に入り、控え室へ。
そしてユニフォームを身に纏う。思わず笑みが溢れる。そして、気合が入る。
控室の中で円陣を組んで。
「いくぞぉぉぉ!!!!!!」
「「「「「おお!!!!!!!!!」」」」」
いよいよ、インターハイへの挑戦が始まる。
***
コートに出て、アップの開始だ。万全の状態で試合に臨むべく、しっかりと体を温める。
出れるかなぁ、出れたらいいなぁ、と考えながら、コートを駆けまわる。
あっという間にアップの時間は過ぎ、試合が始まる。
スタメン(一番最初に出る人達)は河田先輩、植原先輩、筒井先輩、江川先輩に、夏川先輩だ。
会場は結構広く、観客席も用意されている。
選ばれなかったチームメイトたちが観客席の前列に座って声援を届けてくれている。
「ファイトー!!」
「頑張れぇー!!」
もちろん相手のチームも応援をする人がいるわけで、半ば応援合戦である。
スタメンが並んで、挨拶する。
「「お願いします!」」
そしてジャンプボール体制に。
跳ぶのは河田先輩だ。
センターサークルの周りではそれぞれが良いポジションを、と動き回る。
審判がボールを投げた。
力強いジャンプで、河田先輩が軽々とボールを取る。相変わらずのとんでもないジャンプ力だ。
弾いたボールは江川先輩がキャッチ。筒井先輩にボールを回し、攻めていく。
パスをもらったらパス、パスをもらったらパス、と素早くパスを回していく。
そして、フリースローラインあたりで植原先輩がボールをもらう。
植原先輩はフェイダウェイでシュートを放った。フェイダウェイは、後方に飛びながら打つので相手の身長が高くてもブロックされにくい。よって、かなり使えるテクニックだ。
使えるが難しかったりするフェイダウェイで打ったシュートは綺麗な弧を描いてリングに吸い込まれた。
「ナイシュー!!」
「いいぞー!!」
すぐに歓声が聞こえてくる。
まずは先制点。出だしは上々だ。
そして相手のオフェンスへ。
相手はガードまで身長が高いので、身長が高いとは言えない筒井先輩はディフェンスが大変そうだ。
ディフェンスはゾーンディフェンス。コミニュケーションを取りながら、効率よく守る。
スティールできたりカットできたりしそうなボールは執拗に狙っていく。
「うりゃっ」
筒井先輩がボールをスティールした。そしてゴールへ高速ドリブル。歓声がより一層大きくなる。
そのままレイアップシュートを決めた。
「よっしゃー!!」
「ナイス!!」
一気に盛り上がる。
その盛り上がった雰囲気のままディフェンス。
相手も高身長を生かして攻めてくる。だが、河田先輩の驚異的な跳躍力や、夏川先輩のフィジカルには勝てない。
河田先輩がディフェンスリバウンド(ディフェンス側が取るリバウンド)を取り、すぐに速攻。
そしてディフェンス、それから速攻。ディフェンス、速攻–––––。
そうしてあっという間に第1Qが終わって、川島28ー8南工高。
続く第2、第3Qもいい流れを掴んだまま、リードし続ける。
そして第4Q。
「武田、伊織、出るぞ」
ついに俺たちが呼ばれた。もうすでに64対27という点差がついているので、それには関係なく、実力を見るためだとか、何かを試すためだとかいう理由だろう。なんにしろ試合ができるのは嬉しい。
もうすでにスタメンは大方下げられていて、メンバーは俺、武田、木下先輩、夏川先輩、相川先輩。
ドキドキしながら、「お願いします!」とコートに足を踏み入れる。
審判の人からボールを受け取り、木下先輩にパス。
オフェンスだ。
相変わらずの素早いパスで相手を翻弄しつつ、攻める隙を探す。
…………!!
相川先輩が俺のディフェンスにスクリーン。
ほんの少し、ノーマークになる俺。
それを見逃さず、木下先輩がパスをくれる。
決めるんだっ!
気合の入ったスリーポイントシュート。あ、力を入れ過ぎてしまったか……。
と、俺の心配をよそにちゃんとボールはリングの中に。
「ナイッシュー!!!!」
「ナイス!!!!」
一際大きい声援が聞こえて、思わず顔がにやけそうになる。いかんいかん、試合に集中せねば。
気合を入れ直してディフェンスだ。覚えたてのゾーンディフェンスだったが、必死にコミニュケーションを取って守る。
相手の大きな身長に怖気付きそうになるが、集中してディフェンスする。
そのとき、武田がパスをカットした。次の瞬間、全員ゴールに向かって猛ダッシュ。相手も走るが、走り出しが早かった分、追いつかれることはなく。
パスが夏川先輩に。
「ウラァ!!」
夏川先輩が大きく跳んだ。
あ。
ダンクだ……!!
ドガンッ
ものすごい音と共にボールがリングに叩きつけられる。
「す、すげぇぇ!!!!!」
「ウワァァ!!」
会場が今日一番盛り上がる。ダンクは何よりも迫力のあるプレーだから、たとえ相手でもすげぇと思ってしまう。
その後も勢いに乗りまくった川島高校は、最終的に80対31というスコアで難なく一回戦を突破した。
____________________________________
読んでくださりありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。
※内容について。
一年生がいきなりメンバーに入るってことは、あまりないことだと思います。(あるかもしれませんが)でも、ここは譲歩していただけるとありがたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます