第46話「カナタさん、変な顔~♪ ウケる~♪」
「カナタさん、変な顔~♪ ウケる~♪」
俺の微妙な内心を知る由もないユキナは、プリクラを見ながら笑っていた。
「へいへい、カッコよくなくてすんませんでしたね」
最近の若者はほんと正直だよなぁ。
10年前の俺にこんな正直な発言ができただろうか?
なんてことを思いながら、俺も手元にあるプリクラの写真を眺める。
そこには冴えない30代と綺麗な女子大生が、身を寄せあって写っていた。
……はい、そうです。
俺はユキナと一緒にプリクラを撮りました。
いや違うんだ。
プリクラを撮る若者の考えが分かっただけで今日は大収穫だったから、これはその記念品なんだ。
別に「女子大生と密着してプリクラ(フヒヒ……」的なやましいあれじゃないんだよ。
そりゃもちろん狭い半個室での撮影には緊張したし、撮ったからには大事にするけどさ?
そうだ、無くさないように年金手帳とかを入れてる貴重品ボックス(銀色のお菓子のカンカン)にしまっておこう。
でも今さらだけどこの年にして人生初のプリクラを体験するとか、人生って分かんないもんだなぁ。
プリクラなんてウェーイなアイテムは、俺には死ぬまで縁がないと思ってたのに。
「もう、褒めてるのに」
「褒めてはないだろ、褒めては」
「ええ、そんなことないよ、褒めてるじゃん」
……えっ?
「変な顔~♪ ウケる~♪」って褒めてるの?
マジで?
口語ベースのWeb投稿サイト向けにかなり乱れた文章を書いてる自覚がある俺が言うのもなんだが、令和の日本語大丈夫か……?
といった感じの特に中身のない会話をしていると、すぐに俺のアパートに到着した。
3度目ということもあり、鍵を開けた途端にユキナが手慣れた様子で侵入する。
ユキナはコートを置くと、さっきいったん置いておいた食材を持って台所に向かった。
俺の家にはなかったはず(というかあるわけがない)の子猫マークの可愛いエプロンが良く似合っている。
「すぐできるから執筆でもしてちょっとだけ待っててねー」
そう言われた俺が今日のデートの感想を元に、湧き上がるインスピレーションを執筆にぶつけていると、
「お待たせ~、今日はお手軽にラーメンライスだよ♪」
すぐに料理が運ばれてきた。
「ありがとう、いただくよ」
「なんかカナタさんの反応がいつになく薄いような……」
「そんなことはないぞ。すごく感謝してる」
ご飯を作ってもらうことに感謝しない一人暮らしなんていはしない。
「あ、あれでしょ? ラーメンとか関西感ないなーとか思ったんでしょ」
「そ、そんなことは……ないよ?」
答えつつ、俺はついユキナから視線を逸らしてしまった。
嘘をつく時に視線をそらしてしまうメンタル豆腐人間です、はい。
「もう、カナタさんの中の私がどんななのかよく分かる反応だよね」
「ごめんなさい……」
ほんの一瞬チラッと思ってしまっただけなのに、その一瞬を一発で完全に見抜かれてしまった。
これが世に言う女の勘ってやつなのか?
それともユキナの観察眼が鋭すぎるのか?
どちらにせよ、精度が高すぎませんか?。
俺に対してそんな厳しくチェックしてもいいことないよ?
「まったくもうカナタさんは」
腰に手を当ててわざとらしく肩をすくめるユキナ。
少し口をとがらせているのも、少し子供っぽくてそこがまた妙に可愛らしい。
俺がやったら痛々しいことこの上ないだろうけど、美人の女子大生がやると実に様になるなぁ……。
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