第45話 「寒い、寒いよ。 身体じゃなくて心が寒いよ……」
「それは……深いな。いや、ほんと深い……」
「そう? 割と普通の意見だと思うけど」
「いやいや普通なもんか。そうか、なるほどな。そういう価値観だったのか。いやマジですごく勉強になった。悪い、ちょっと手を離してもらってもいいか?」
「いいけど。でもどうしたの?」
「忘れないうちに今のやり取りをメモりたいんだ」
「わわっ、もうカナタさん、急に動かないでよね。ビックリするじゃんかー」
プリプリされながらも俺はユキナの腕から手を引っこ抜くと、カバンから創作ノート(いわゆるアイデア帳)を取り出した。
すぐさまユキナからゲットした、今どき女子大生のプリクラに対する「物の捉え方」を書き込んでいく。
「ごめんごめん。でもなるほどな……そうだったんだな」
「なにが?」
「デジタルで簡単にできるからこそ、『出力された小さな写真』っていう一品物のアナログな形態により大きな価値を見出してるんだな」
なるほどなぁ。
デジタルネイティブの世代は、アナログにそういう価値を見出していたのか。
アナログ世代的には、デジタルは多くの分野で便利な上位互換って感覚なんだけど、デジタルネイティブ世代はまったく違う捉え方をしてるんだな。
「よく分からないけど、カナタさんが喜んでくれたみたいで良かった♪」
「本当に現役の若者から得られる生の情報はタメになるよ。言葉の節々に実感がこもってるから」
俺はうんうんと何度もうなずいた。
目から鱗が落ちるとはこのことだ。
「あはは……ちなみにそのちっちゃなノートっていつも持ち歩いてるの? それこそスマホにメモしたらよくない? そしたらタダだよね?」
「俺の世代だとこっちの方が慣れてるし、後で見返しやすくてさ。後から書き足したり、斜線を入れたり矢印入れたりも簡単だし」
デジタルがどれだけ進んで便利で安くなっても、創作ノートだけはアナログに限るというのが俺の持論だ。
「ねぇねぇ。ふと思ったんだけど」
俺が今の心境やらユキナの言葉やらをダーッと創作ノートに書き込んでいると、ユキナが小さくつぶやいた。
「なんだ?」
「カナタさんが学生の頃ってスマホなかったんだよね?」
「もちろんなかったぞ。学生時代が携帯の出始めだったからな。だから携帯も持ってないやつが多かったし」
「じゃあ待ち合わせとかどうしてたの? 時間に遅れた時の連絡ってできないよね? 寝坊とか電車が遅れたりとか、割とあると思うんだけど」
「できないから、とにかく遅れないように必死だったな。大事な要件だと1本2本早めに行くのはマストだったし。遅刻したらとりあえずメシ奢るのが当たり前だった感じだな」
「ふへぇ。それじゃぁデートの待ち合わせとか大変だったでしょ?」
話の流れで出たユキナの何気ない質問に、
「……で、ででデートの経験はないから分からないな」
俺は震え声で答えた。
メモする手も震えて文字がミミズの運動会になっていた。
寒い、寒いよ。
身体じゃなくて心が寒いよ……。
「ご、ごめんなさい……色々とごめんなさい……」
申し訳なさそうな顔で頭を下げたユキナが、逆にさらに俺の心に追い打ちをかけたのは言うまでもない。
その後、しばらくしてから俺たちはショッピングモールを後にした。
デートしたせいでかなり遅くなったけど、
「明日は3限からだからぜんぜんいいよー」
と構わず晩ご飯を作ってくれるというので、せっかくだからユキナにお願いした。
もう知らない仲でもないしな。
俺とユキナはデートしたりお泊りしたり…………あれ?
冷静に考えたらこれ普通の関係じゃなくね?
明らかに特別な関係じゃね?
――などと口に出してしまってはキモがられること間違いなしなので、俺はその考えを心の中にきつく封印しておいた。
――――――――――――――
【お詫び】
書籍化の改稿作業(いわゆる商業原稿)が締切マジヤバイ感じなので、ファミチキは週一での更新になります。
楽しんでくれている皆さん、本当に申し訳ありません。
その代わりと言ってはなんなのですが、ほぼほぼ完成している異世界ファンタジー(約10万字)を毎日投稿します。
「ブラック社畜の俺、部屋で深夜アニメを見ていたら駄女神に説明もなしにドラゴンの跋扈する異世界に強制送還される。でも今は≪盾の聖女≫と共に元気に最強勇者やってます!」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860195025387
ドラゴンが跋扈する異世界で、最強勇者になって≪盾の聖女≫リュスターナや竜姫≪ミストルティア≫と仲良くなりながら世界を救う物語です。
こちらは最後まで下書きが書ききってあり、若干清書すれば公開できる状態なので商業原稿となんとか両立可能(なはず)です。
本当に申し訳ありません。
でも今月だけは商業原稿を優先させてくださいまし( ;∀;)
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