第44話 ユキナとデート
いったん俺のアパートに行って食材を置いてから、俺とユキナはショッピングモールにやってきた。
腕を組んでやけに密着してくるユキナと、アクセサリーショップやらなんやら適当に見て回る。
最初こそ、
(適当にブラブラ見て回るって言っても、なにをどう見て回ればいいんだ? 「適当」って言葉でこなせるのは、そもそもちゃんとやれる奴だけなんだよなぁ……)
などと、この先の展開に内心ビクつきまくっていた人生初デートの俺だったのだが。
「ねぇねえカナタさん、これって可愛くない?」
「可愛いけど、でもなんだこいつ、猫か?」
「耳が微妙に長いからどっちかって言うとウサギじゃない?」
「いやいやウサギではないだろ?」
「ええっ、絶対ウサギだってばー」
可愛いものの、何の生物なのかイマイチ分からないぬいぐるみについて熱い論戦をかわしたり。
「なにこれ超ウケるー」
「ウケるけど、そこまでではないような?」
「ええっ、そんなことないし。もうカナタさんってば、年取って感性が磨耗してるんじゃない?」
はうぁ!?
か、感性が……摩耗!?
「お、おまっ、創作者には絶対に言ってはならないことを言いやがったな!?」
「えへへ、めーんちゃい♪」
若者から感性が磨耗してると言われて、俺の精神が永劫の闇に沈みかけたり。
「あ、あれ見てあれ! 変なのー」
「うーむ、今度こそ何の生物だ……? あとモチーフもさることながらこの物体の存在意義が本気で分からないんだが……この小さな置物(?)をなんに使うんだよ?」
「なんだろうね? 箸置きかな? 文鎮かも? もしくはただのインテリア小物?」
「……誰が買うんだ?」
「さぁ?」
そんな感じで、目につくものに次々と目移りしては話題を振ってくれるユキナのおかげで、俺は特に何もしないでも「デート」することができてしまっていた。
もし俺がユキナと同い年くらいの若い男だったなら。
可愛い女の子の前でいいところ見せたいと思って変に張り切ってしまい、結果空回りしちゃったりするんだろうけれど。
もういい年した俺には最早そういう気持ちはほとんどないので、頑張ってアピールとかせずにユキナに任せるままにしていたのが良かったのかもしれない。
そんな風にユキナに終始リードしてもらいながらショッピングモールを見て回っていると、ゲームセンターの前でユキナがとある筐体を指差した。
「ねえねえカナタさん、今日の記念にプリクラ撮ろうよプリクラ」
「プリクラは……ちょっとやめないか?」
「ええっ、なんでよ~? やっぱデートにプリクラは必須だよ?」
「だってプリクラって写真だろ?」
「うんそうだね。それ以外にある?」
「写真ならスマホでいくらでも撮れるだろ? 今は編集だってスマホで簡単にできるんだし、なんでそこに金をかける必要があるのかなって思うんだけど。自撮りすればよくないか?」
「ああ、そういうこと」
「それで浮いたお金でちょっとした記念のお土産とかを買ったりした方が、いいデートになるんじゃないかなって思ったんだけど」
デート初心者の素人意見(謙虚でも自虐でもなんでもなく事実)で恐縮ですが。
「うーん……そうかもだね」
「だろ?」
「でも簡単に写真が撮れる時代だからこそ、こうやって特別な場所で特別な思い出として残すことに、意味があるんじゃないかな?」
ユキナのその言葉に、俺はハッと目を見開いた。
創作にとって最も大切な「気づき」を得たのだ――!
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