第43話 俺は二次元デートマイスターだ(キリッ

「今ちょうどクライマックス直前のデートシーンを書いてるんだけどさ。イマイチいい感じのが思い浮かばないんだよな。それで参考にでもなるかと思って最近、カップルを観察してるんだ」


「はぁ、そんなことだろうと思ったし……あ、でもカナタさんのはファンタジーなラブコメなんでしょ? だったら自分が好きなように書いたらいいんじゃないの?」


「それがな? 俺も10年以上ワナビをやっているだろ?」

「みたいだね? よく知らないけど」


「そうするとデートシーンで思いつく場所には、たいがい行き尽くしちゃってるんだよなぁ」


「そうなんだ」


「水族館、動物園、映画館、植物園、カラオケ、ショッピングモール、異世界、しまむら、セレクトショップ、遊園地、公園、回るお寿司、回らないお寿司、団子屋、ラーメン屋……それはもうありとあらゆる色んなデートを書いてきたからな」


 あ、宇宙にも行ったっけか。


「それはそれで結構すごいんじゃない?」


「執筆歴だけはムダに長いからな……もはや俺がデートで行ったことがない場所はない。言うなれば二次元デートマイスターだと自負しているくらいだ」


「に、二次元デートマイスター……ものすごいパワーワードだし……」

 ユキナの頬が一瞬ピクッとひきつった。


 だがそれにも弊害があって。

 

「けどそのせいで過去作とのネタ被りがどうにも気になってさ。最近デートシーンが書きづらいんだよなぁ。ほんとまいったよ」


「あはは……」


「ってわけで。ちょっと方針転換して、現実世界のリアルなデートからインスピレーションを得ようとしているわけさ」


「なるほどなるほど。じゃあ今からわたしがデートしてあげてもいいよ?」


「は? 俺とってことか?」

「うん、そう♪」


 そう言うとユキナは俺の返事も待たずに、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 だがしかし。


「いや、遠慮しておこうかな」

 俺は即答でお断りした。


「まさかのお断りされちゃった……ぐすん……」


 しかしそう言いながらも、ユキナは俺の腕に絡めた手を離そうとはしない。

 なんていうかその、全体的に柔らかい女の子の感触が俺を妙にドキドキさせてくるんだが?

 俺も男なので何とも感触が気になっちゃうんだが?


「理由を聞いてもいい? あ、やっぱり彼女いるんでしょ?」

「だから彼女はいないってば」


「さっきのあの子とか?」

「さっきも言ったけど真田さんはただの職場の後輩だよ」

「あ、真田さんって言うんだ。ふーん」

「……」

 べ、別に名前を知られてまずいことはないよな????


「じゃあ執筆がまだ終わっていないとか?」

「いや明後日の更新分までは終わってるよ」


 ユキナと一緒に書き上げたあの日から、今回のデートシーンでつまづくまで妙に執筆がはかどったんだよな。

 もしかして作家として覚醒したのかも?

 一つ上の男になっちゃった?

 とか思ってたんだけど、やっぱりそうでもなかったのが悲しい今日この頃。


「じゃあなんで?」


「ぶっちゃけて言えば――」

「ぶっちゃけて言えば……?」


「金もプランもないからだな」

「うわーお……」


「今ちょうど給料日前だからデート代が厳しいんだよなぁ。なにより女の子を喜ばせるようなデートを、俺が準備無しでできるとは思えないから」


 例えばド定番の映画に行くとする。

(映画を見ている間は会話をしなくていいから、デート初心者にはお勧めとネットで見た)


 だがしかし。

 創作の中では「恋愛映画を見に行った」で済む簡単なお仕事だが、実際はどんな映画が流行っていて、一緒に行く相手はどんな映画が好きで、どこで何時から上映していて、そのために予約を取ったりと色んなことをしないといけない。


 そしてそのための情報を俺はまったく持ちあわせていなかった。


 そもそもこの辺りに映画館ってあったっけ?

 駅前のショッピングモールの上の方の階に、たしか入っていた気がする……ような?

 俺、映画見ないんだよなぁ。


「そんなに真剣に考えなくても、適当にブラブラ見て回ったりするだけで十分デートだってば」


「そんなもんか?」

「そんなものだよー♪」


「じゃあ……駅前のモールでも一緒にぶらつく?」

「なんで微妙に疑問形なの?」


「もちろん自分でデート内容を決める自信がないからだな」

「そのセリフは、これでもかってくらいに自信満々なんだね……」


 というわけで。

 俺はユキナと駅前のショッピングモールへと向かった。

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