第42話「怒ってませーん!」
「悪い、待たせたな」
既に買い物を終えてエコバッグを掲げたユキナに俺は声をかけた。
「ううん、全然。ところであの女の子ってカナタさんの彼女? さっきからずっとこっちを睨んでるんだけど……もしかして悪いことしちゃった?」
視線を向けると真田さんがスナック売り場からじっとこっちを見つめていた。
おいこら、何してんだよ。
スナック菓子を出してる最中だろ。
人手不足なんだからこっち見てないでちゃんと仕事しろよな?
あとなんか目が怖いんだけど。
なんでそんな目をしてるんだ?
まさかまだパパ活を疑ってるのか?
割と良好な関係だと思ってたのに、俺ってそんなに真田さんから信用されてなかったんだなぁ……。
「別にあの子はただの職場の後輩だよ」
「ええ~、とてもそうは見えないけど? 意外とカナタさんに気があるんじゃない? 今度デートに誘ってみたら?」
「そんなことあるわけないっての。どこのファンタジーラブコメだよ」
「そんなことあると思うけどなぁ~」
「多分だけど、俺がパパ活してるんじゃないか疑ってるんだよ。ま、それはいいだろ、ほら行こうぜ」
「カナタさんがそう言うならいいけどね」
なんとも意味深に言ったユキナと連れ立って、真田さんの視線から逃げるようにアパートに向かう。
「うー、さぶさぶ……」
外に出た途端にユキナが手をこすりあわせた。
「この真冬の寒い時期に素手とか、ユキナは手袋はしない派なのか?」
「そんなわけないしー。今日は寝坊しちゃって持ってくの忘れただけだしー」
良かったら俺のを使うか?
なんてことは口が裂けても言えなかった。
どう考えてもイタい。
イタすぎる。
せっかくユキナと仲良くなれたのに、「いきなりカレシ気取り?」とか思われて幻滅されたら最悪だ。
ちなみに食材の入ったエコバッグは俺が持つことにした。
女の子と仲良くした経験が皆無の俺もさすがに、冬場に素手の女の子に荷物を持たせたままにしたりはしない。
「1月後半、今が一番寒い時期だよなぁ」
「あと1か月くらいは我慢の時期だよねー」
「春が来るのが待ち遠しいよ」
話をしながら俺は道行く人々を――主にカップルへと視線を向けていた。
「さっきからなにをキョロキョロ見てるの?」
「ん? ああ、カップルがどんなデートしてるのかなって思ってさ」
「あ、も、もしかしてその……」
「ん? どうした」
「わ、わたしと今デートしてるみたいとか思ってたり!? それでつい気になったりとか!? な、なんちゃって!」
ユキナが妙に早口かつ小声で何ごとかをつぶやいた。
しかし、
ブロロロロロ――!
ちょうどすぐ近くをバスが通ったせいで、その声は騒音の中にかき消されてしまう。
「ごめん、バスのエンジンの音が大きくて聞き逃しちゃったんだけど、もう一回言ってくれないかな?」
「なにも言ってませーん!!」
するとなぜかユキナが急にプリプリと声を荒げたのだ。
「いやなにか言ってただろ? バスの音で聞こえなかったんだよ」
「だから言ってませーん!!」
「いや、言ったよな?」
「言ってませーん!!」
「……もしかして怒ってる?」
「怒ってませーん!」
どう見ても怒ってるじゃん……俺がなにしたってんだよ。
さっきまで仲良く話してたのに、急に怒りだすなんてほんとリアルの女子は難しいな。
こんなのとても書ける気がしない。
うん、やっぱり俺はファンタジーなラブコメ路線を貫こう。
女の子の気持ちがこうも分からない俺には、リアルラブコメを書くのは不可能だ。
まあでも、一応キョロキョロしていた本当の理由だけは伝えておくか。
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