第41話「まさかパパ活ですか~?」

「一緒にご飯食べようとか言ってましたけど、まさかパパ活ですか~?」


 しかし一刀両断でものの見事にぶった切られてしまった。


 だよなぁ。

 それが社会一般の普通の感覚だよな。

 改めて認識させられたよ……。


「違うっての、本当にただの友達だから」


「怪しいです~……」


 ジト目で見つめてくる真田さんがスマホを取り出した。


「ちょっとぉ!? マジで怪しくないからスマホはしまおうな? 通報はやめてくれよ? 揉めごと起こすとリアルに居られなくなるからさ」


 この店、今のアパートから近くて、通勤時間が短い分だけ執筆時間が取れるから理想的なんだよな。

 他店で話に聞くようなヤバイお客さんもほとんどいないし。


「じゃあ今度、私も名城さんの家に遊びに行ってもいいですか~? 一緒にご飯食べましょうよ~?」


「何がどう『じゃあ』なんだよ? うちは飯屋じゃないっての」


「あの人がいいなら、私も名城さんの家に行ってみたいなーって~。名城さんのおうちって、ここから近いんですよね~?」


「俺はプライベートに仕事を持ち込まない主義なんだ。悪いが他を当たってくれ」


 というか空いてる時間はほとんど執筆に費やしてるから、プライベートの時間なんてものはほとんどないんだよな。

 ――なんてことを言ってしまうと、俺がいい年してまだ夢を追い続けているワナビであることが露見してしまうので、ここでは言えなかった。


「ぶう~、やっぱりあの人は特別じゃないですか~。あやしーです~」

「だから怪しくないっての」


「ずるいです~! 私も名城さんのおうちで一緒にご飯食べたいです~!」


「俺じゃなくて大学の友達とでも食べたらいいじゃないか……」


 うーん。

 いつもはほんわかおっとりしてて、可愛い笑顔でとても素直に言うことを聞いてくれる真田さんなのに、今日はやけにウザ絡みしてくるな?


 もしかしてちょっと機嫌でも悪いのかな?

 友達とケンカしたとか、大学で嫌なことでもあったとか?


 真田さんとは年も離れてるし、仕事での付き合いしかない俺には本当の理由は分からないけど。

 ま、ここは大人の俺がストレス発散の的になってあげようじゃないか。


「ズルいです~! ズルい~!」


「ははは、知らなかったのか? 大人はズルい生き物なんだよ。真田さんも早く大人になるんだぞ」


「ズルいー!!」

「そうそうズルいんだ、大人だからな」


「私も遊びに行きたいです~~!」

「はいはい分かった分かった、また今度タイミングがあったらな」


「あ、今言質取りましたからねー?」

「……」


 そんな話をしながらも、俺は大量の豆乳をバッチリ綺麗に積み込み終えた。


 何度も言うけど、スーパーのバイトは本当に忙しいのだ。

 手を止めて話している暇なんてものは存在しない。


 うん、我ながら歯抜けのない綺麗な売り場になったぞ。

 最近は健康志向もあって、冬でも豆乳の需要が落ちないからな。

 なんでもスープやシチューに入れる牛乳の代わりに、豆乳を入れたりするらしい。


 それはそうとして、とりま、これで明日の特売も一安心だ。


「じゃあそろそろ退勤時間だから俺は帰るな。後は何かあったら田路たじさんにな」


 引き継ぎってほどたいそうなもんでもないんだけど、午後から来て閉店までいる社員さんの名前を伝達する。


「ぶぅ……は~い、お疲れさまでした~」

「お疲れさん」


 やっぱりいつもと違って不満を隠そうとしない真田さんから、俺は逃げるようにしてロッカールームへ向かった。

 パパっと着替えてからユキナと合流する。

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