第40話 なぜかジト目の真田さん

「ぶっちゃけスーパーのバイトに忙しくない瞬間はないかな」


 口を開けば「経費削減」とおっしゃる本部によって人件費が切り詰められまくっているスーパーのバイトは、本当に忙しい。


 本部の想定通り「全てのバイトがやる気のある正社員並みに勤勉かつ懸命に働く」前提で作られた理想のシフトと。

 しかし実際はお小遣い稼ぎの緩い学生バイトが多数いる現実。


 その理想と現実の差から生じるマンパワーの決定的不足を埋めるのも、社会人バイトリーダーの仕事だった。

 時々心が辛くなることもあるが、泣き言を言っても人手不足は解消しない。


「ねぇねぇ、カナタさんってそろそろ上がりなんでしょ? 今からカナタさんの家に行ってもいいかな?」


「え、今からか?」


 時刻は16時20分。

 俺のシフトは7時半から16時半までだから確かにもうすぐ上がりなんだけど、人の家に遊びに行くには遅すぎる時間な気がしなくもない。


「カナタさんの家で晩ご飯一緒に食べようかなーって思ったんだけど、だめ?」


「うーん……」


「えっとね、ほら、今ってカクヨムコンっていうので大変なんだよね? だからパパっとラーメンでも作ってあげようかなーって思ったんだけど」


「マジか? いやでもさすがに悪いだろ」


 いい年した男が飯を作らせるために年の離れた女子大生を家に呼ぶとか、どう考えても褒められたもんじゃない。


「遠慮しなくていいってば。ほんと簡単に作るだけだからたいした手間じゃないよ? こう見えて時短クッキングが得意なんだよねー」


「そうか? それならまぁお願いしようかな?」


「やった♪ じゃあ適当に麺とかもやしを買い物して時間潰してるね。上がる時に声かけてよ。一緒に帰ろ♪」


「あ、ああ……」


 ユキナはそれだけ言うと店内を物色し始めた。


 俺も再び豆乳を出す作業に戻ったんだけど――、


「ねーねー名城さ~ん? あの綺麗な女の人って誰なんですか~? まさか恋人ですか~? ちょっと気になるんですけど~?」


 なぜかジト目の真田さんが俺の前に立ち塞がった。


「……あ、ああ、まだいたのか。持ち場に戻ってくれていいぞ。スナック菓子出してる最中だったろ?」


 別に何も悪いことしていないのに、どうしてだかとても後ろめたい気持ちになってしまった俺は、一呼吸おいてから平静を装って答える。


「あ~、なんか名城さんが妙にそっけないんですけど~? もしかしてやましい関係だったりですか~?」


 ギ、ギクぅッ!?


 いやでも、全然やましくはないんだぞ?

 単に終電を逃したユキナを、これはもう仕方なく一晩泊めてあげただけであって。

 け、けけけ決してやましい関係になんかなったりしてないんだからな!?


「な、なにをバカなこと言ってるんだよ。ただの友達だっての。あはははは……」


「だってあの人~、私と同じ年くらいですよね~? 女子大生ですか~?」


「き、聞くところによるとどうもそうみたいだな」


「あんな若くて綺麗な女の人と、いい年した名城さんがどうやって知り合ったんですか~? すごく気になるんですけど~?」


「おいおい、友達に年齢差なんて関係ないだろ?」


 俺とユキナの関係をやけに怪しんでくる真田さんに、俺はユキナに言われた取って置きのセリフを言ってやった!


 ふふん、どうだ見たか!

 これにはぐうの音も出まい!

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