第39話 スーパーでのお仕事

 それから数日後。

 あれからちょこちょこユキナから大学の試験期間がどうの近況報告(?)があった以外は、特になにかあるわけでもなく、


「あらかた要冷(冷蔵が必要な商品)は出せたな。後は豆乳とかの非冷(冷蔵が不要な商品)の飲料を出したら終わりか」


 俺が今日も今日とてスーパーの昼便の商品出しに励んでいると、


「名城さ~ん! お客様が焼きミョウバン欲しいって言うんですけど、どこにあるんですか~? っていうか焼きミョウバンってなんですか~?」


 学生バイトからヘルプ声が投げかけられた。


 真田明日香。

 ゆるふわの柔らかそうな茶色い髪がよく似合う、去年の春から働いている私立大学1年生の女の子だ。

 俺とは波長でも合うのか、やたらと懐いてくれている。


「了解、俺が案内するよ。焼きミョウバンはナスビのあく抜きとかに使うんだけど、食料品じゃなくて薬局コーナーにあるんだ。どちらのお客様?」


「あの赤いコートのマダムです~」


「分かった。真田さんは俺の続きで豆乳を出しててくれる? バックヤードのデイリーの在庫置き場に大量に積んであるから」


「分かりました~」


 俺は真田さんと商品出しの仕事を交代すると、


「お待たせしました。焼きミョウバンですね、ご案内いたします」

 マダムをサクッと売り場まで案内する。


「そうそうこれこれ、こんなところにあったのね~。調味料のところをずっと探してたのよ。教えてくれてありがとうね、助かったわ」


「とんでもございません。それではごゆっくりどうぞ」


 珍しい商品の売り場案内もスーパーのバイトの大事な仕事の一つだ。

 俺もこの店での仕事が長いので、店内の約5000アイテムのうち新作商品を除くほぼほぼ全ての商品の売り場は把握している。


 なので何か困ったことがあったら、とりあえず俺のところに聞きに来るバイトは多かった。


「名城さん、ありがとうございました~。さすが店長よりも売り場に詳しいって言われるだけありますね~」


 豆乳売り場に戻ると、笑顔の真田さんが感謝の言葉をかけてくれる。


「ま、俺もこの店が長いからなぁ。あ、売り場戻ってくれていいよ。後は俺が出すから」


 豆乳の商品出しを真田さんから引き継ぐ。

 しかし真田さんはこの場を動かずに話を続けてきた。


「そろそろ就職とかしないんですか~?」

「……」


「すみません、禁句でした~! 忘れてください~!」

「ううん、気を使わせてごめんね」


 俺が若者の何気ない言葉のナイフに心をザクザク切り刻まれていると、


「あ、カナタさん。ヤッホー。やっぱここだった」

 そこになぜかユキナが現れた。


 外と違って店内が温かいからだろう。

 水色のコートの前を開けていて、ロングスカートと身体にフィットした暖かそうなタートルネックのニットトップスが、いかにもお洒落な女子大生っぽい。


「ユキナじゃないか。今日は買い物か? ちなみにうちの店の特売日は明日だぞ?」


「うーうん、カナタさんが近くのスーパーで働いてるって聞いたから、友だちのところに行った帰りに多分ここかなって思って寄ってみただけ」


「なんだ冷やかしかよ」

「なにそれひどーい! せっかく顔を見に来てあげたのにー」


「ごめんごめん、冗談だってば」


「えっと、もしかして今って忙しかったり?」


 せっせと豆乳を出しながら話す俺を見て、ユキナが少し遠慮がちに尋ねてきた。


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