第38話「ぶぅ……いきなりお説教?」

「あとな? 男の家にほいほい泊まろうとするのは、やめておいたほうがいいと俺は思うぞ?」


「ぶぅ……いきなりお説教?」


 ユキナが今度はほっぺをふくらませて、わざとらしくむくれた顔をする。

 元が美人なので、こういうあざとい演技をしてもしっかり可愛いんだよなぁ。

 俺が同じことをやったら「キモっ!」って言われること間違いなしなのに。」


「俺は他人に説教できるほど自分を偉い人間だとは思ってないよ。単にユキナを心配してるだけ。女といる時の男ほど信用できないものはないからな」


「それってカナタさんの経験則? 今は冴えない30代だけど、もしかして昔はヤリチンのチャラ男でブイブイ言わせてたの? 泣かせた女は数知れず? ちょっと意外かも」


「違うっての。どんな発想の飛躍してるんだよ」

 ヤリチンのチャラ男とか俺とは対極の存在だぞ?


「良かった、カナタさんがヤリチンのチャラ男じゃなくて。私、チャラ男は好きじゃないんだよねー」


 ……その言葉に何となくホッとした自分がいた。

 いやほんと、なんとなくな?

 他意はないんだ。


「話を戻すけど、俺の薄っぺらい人生訓じゃなくて、小説を書くにあたって今まで色んな媒体からインプットしてきた、だけどこの件に関してはどれも変わらず一貫している不変の男性心理だよ」


「うー、長いから要約よろしく?」

「つまり男は狼ってこと」


「超短くなったね♪ さすが小説家志望♪ やるぅ!」

「そりゃどうも、将来有望な国立大学生にお褒めいただいて光栄だ」


「でもわたしはカナタさんのこと、割と信用してるからそれは大丈夫だよ?」


「出会って数日の俺の、いったい何を信用してるってんだ……?」


 信用できる要素は皆無だよな?


「ま、色々とねー」

「はぁ……」


 色々ってなんだ、色々って。

 俺ってそんなに人畜無害に見えるのかな?

 俺だって人並に性欲とかもあるんだけど。


 最近の若い子の考えることはよくわからないなぁ……はっ!?

 このフレーズが出てくること自体、俺の感性が年老いて錆びついて干上がりつつあるってことなのでは!?


 ひいぃぃっ!?

 なんて恐ろしいことが俺の身に起こっているんだ!


 わかりたい、心底わかりたい!

 何とかしてユキナの気持ちがわかりたいんだが!?


 お願い神様教えて!

 俺はまだプロにもなれてないんだ。

 こんなところで早々と感性を錆びつかせるわけにはいかないんだよ!


 俺が心の中で神に祈っているともつゆ知らず。


「じゃあそういうわけだから、泊まってもいいよね?」

 グイグイと俺から言質を取ろうとしてくるユキナ。


「いいわけないっての。ほら、帰った帰った。俺明日も朝から仕事なんだから」


「あ、そっか。仕事ならしょうがないね。じゃあはい、今日のところは帰りまーす」

「やっと納得してくれたか」


 「今日のところは」ってのが若干気になるけど、まぁ今はいいよ。


「納得はしたけど、でもこんな可愛い女の子を追い返すなんて、ほんとカナタさんは酷いよねー」


「へいへいすんませんでしたね……もう暗いし気をつけて帰るんだぞ? 最近は怖い事件も多いしな」


 つい先日も、面識のない女の子を路上でいきなり刺し殺した事件が世間を騒がせたばかりだ。

 用心するに越したことはない。


「はーい♪ でももうちょっといいよね?」

「もうちょっとだけな」


 それからちょっとしてからユキナが去り。

 途端に部屋が静かになった。


「この部屋ってこんなに静かだったっけ……?」


 部屋に1人でいることに今まで感じたことがない寂しさがこみ上げてくる。

 しかしながら明日も朝から仕事なので、俺は一抹の寂しさを心にかかえたまま鍋パーティの後片付けをすると、風呂に入った。

 そしていつものように寝るギリギリまで執筆をした。


 寂しくても切なくても辛くても。

 今は大事な大事なカクヨムコンの終盤戦だ。

 プロの作家を目指すための一番大事な時期なのだから、そこは疎かにはできない。


 俺はプロの作家になるんだ――絶対に。

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