第37話「もしかして、よ、欲情!? カナタさんのえっち! すけべ!」

「そのすっごく自慢げな顔を見てると、ものすごく納得プライスだったんだね?」


「おうよ。特売の中でも特に安くなってる超お値打ち商品がわかるのが、原価を見れるスーパー店員の特権だよなぁ」


「あはは、もうここまで来ちゃうと、普通の主婦じゃ何をどうしたって太刀打ちできないよね」


 ユキナが苦笑した。


「ユキナも商品の原価が気になったら聞いてくれていいぞ。物にもよるけど俺が担当してるデイリー部門ならだいたいの原価はわかってるから。パンならほぼ75%前後、コンニャクは30から40%とかな」


「う、うん……機会があったら聞くね。多分そんな機会はないと思うけど……」

「遠慮しないでいいからな」


「っていうかさ、コンニャク酷くない? 原価が30から40%ってことは、半分以上が利益ってことでしょ?」


「そういうことになるな」


 ちなみにコンニャクは水分がほとんど(95%以上)で利益率が半端なく高いため、水を売る=水商売などと言われている。


「もっと安くできないの? 暴利をむさぼってるよ」


「そこはそれ。逆に納豆なんかは原価が90%を超えるのが当たり前の激戦商品だからさ。取り扱っている商品全体で差し引きすると、平均で利益が20%から25%くらいに収まるんだよ」


「ふーん、商売ってそういうなもんなんだね。それはそうとして、ねぇねぇ今日も泊っていってもいい?」


「ダメに決まってるだろ」

 突然ユキナがアホなことを言い出したので俺は速攻で拒否をした。


「えぇ~? なんで~?」

「なんでって、まだ終電があるんだからちゃんと自分の家に帰りなさい」


「えー、いいじゃーん。前も泊ったんだしー」

「ほんとは前も泊める気はなかったんだよ」


「1回も2回も一緒でしょ?」

「いいや違うな。よし、せっかくだから人生の先輩がいいことを教えてやろう」


「いいこと?」

「世の中たいがいのことは1回だけなら言い訳がきくんだよ。でも2回やるとアウトなんだ」


 言いながら、俺はじっとユキナの顔を見た。


「な、なに……? 急にじっと見つめてきて……? はっ、もしかして、よ、よ、欲情!? カナタさんのえっち! すけべ! 淫獣!」


 淫獣ってまた、今どきの女子大生らしからぬワードが出てきたな?

 ユキナのボキャブラリーの豊富さには正直驚かされてばかりだ。


「なんでだよ……ユキナの距離感が変に近いから、もしかして昔会ったことがあるのかなって思って、改めて顔をよく見ただけだから。でもやっぱ記憶にないなって再認識した」


 俺の昔の知り合いとかでは絶対ないと確信を持って言える。


 なにせ俺ときたらいい年して女の子と仲良くなった経験はゼロだ。

 もちろん仕事で話すことはあるが、それだけ。


 そんな俺がこんな美少女と知り合いだったとしたら、忘れるはずはなかった。


「それはそうだよ。カナタさんとはこの前のファミレスであったのが初対面だもん。そもそも私、高校まではずっと神戸だったし」


「だよな。俺はずっと東京だから、俺とユキナが会ったことがあるわけないよな」

「ですです」


「でもだったら尚更なおさらダメだな」

「えー」


「えー、じゃありません」

「じゃあ、つーん」


 ユキナが今度はプイッとそっぽを向いた。

 じゃあってなんだ、じゃあって。

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