第36話 運転免許証
「ちなみにオートマじゃなくてミッションでとってるぞ、昔はそれが普通だったからな」
「あ、わたしオートマ限定だよ♪」
「最近はみんなそうだよなぁ。そもそも個人向けだとミッションの車なんてまずないし」
「お父さんがほとんど専用で乗ってる車はミッションだけどね。なんて言ったかな、ガンダムみたいなちょっと古いスポーツカーだったんだけど……」
「ガンダムみたい? なんだそりゃ? V字アンテナでもついてるのか?」
「うーんとね……名前が、あ、あーるえっくす……なんとか?」
「ガンダム……RX-78……え!? もしかしてRX-7か!? フロントが長い流線形の、マツダの超カッコいいスポーツカー!?」
「よく覚えてないけど、多分それかな? マツダだったし、新幹線みたいな顔してるから」
「うおっ!? すっげぇ!? お父さん、令和の時代にRX-7に乗ってるのかよ! いいなぁ、俺も乗りたいなぁ……」
俺はちょうど
「じゃあ今度、わたしの実家に遊びに来たら? 頼んだら乗せてくれると思うよ?」
「さすがにそれはちょっと遠慮したいかな……」
可愛い愛娘が一回り以上も年の離れた男を友達と称して家に連れてきたら、世の父親という父親は我を忘れて怒り狂うことだろう。
鉄拳制裁を受けることは間違いない。
「ふーん?」
「まぁそれはそれとしてだ。ちなみになんだけど俺の免許はルール改正前の古いのだから、8トン以下の中型もいけるんだぞ。すごいだろ?」
「そうなんだ! カナタさん、大きい車も運転できるんだね。8トン以下っていうのがイマイチよく分からないけど、小さめのトラックとかだよね? そんなの運転できるんだ」
「いやまぁ運転できるかどうかはまた別の話なんだけどさ」
「え、なんで? だって免許持ってるんでしょ?」
ユキナが不思議そうな顔をしながら首をかしげた。
「そんなでかい車には教習所ですら乗ったことがないんだよ。ただの一度もだ」
「……なのに免許があるの? それって危なくない?」
「普通に考えて危ないだろうな」
「どうなってるのこの国の法律って……?」
「俺に聞かれても……っていうかユキナは法学部なんだろ? ユキナの方が詳しいんじゃないのか? よく知らないけど道路交通法とかに書いてあるんだろ?」
「そういう細かい実務系のは学部ではやらないしー。もっと基礎的な刑法とか民法とかの法律の基礎解釈とかをやってるから」
「なるほど、さすが法学部生だな」
「えへへ、でしょでしょ?」
「専門的すぎて何を言ってるのかさっぱり分からなかった」
「ごめんね、説明が下手で……」
「いや俺が法律をさっぱり知らないアホなだけだから、ユキナは悪くないよ」
――というようなやり取りをしながら、俺はユキナの作ってくれた「関西風の鍋」を満喫したのだった。
「ふぅ、今日は関西を堪能したよ。ありがとなユキナ」
俺は食後のデザートに用意したフルーツみつ豆をユキナと食べながら、心からの感謝の気持ちを伝えた。
「どういたしまして。わたしもこんなに喜んでもらえてびっくりしたかな」
「ユキナのおかげで、関西人を小説に登場させる野望が大きく前進したよ」
「それはなによりだね。でもちょっと意外かも?」
「なにがだ?」
ユキナがスプーンでフルーツみつ豆を指し示す。
「デザートにフルーツみつ豆が出てきたこと。カナタさんなら『フルーツみつ豆は値段の割に量が少なくてコスパが悪い!』とか言いそうかなって思ったから」
「たしかにフルーツみつ豆は量的なコスパは悪いな」
「でしょ?」
「だけどフルーツとかカラフルな寒天とか色々入ってて、そういう意味ではお得感があるだろ? あれこれ食べれて質的にはコスパがよく感じるからさ。俺的には有りかなって」
「あはは、そういうことね。ブレないね、さすがカナタさん」
「ちなみに年明けにあった缶詰特売の時の隠れた目玉商品でさ。その時にまとめ買いしておいたんだ。広告の目玉商品じゃなかったんだけど、実はほとんど原価ギリギリの超お買い得商品だったからな」
俺はよくぞこの話題を聞いてくれたとばかりに、早口でまくし立てるようにキリッと言った。
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