第35話 関西人から見た関東
「それで聞きたいことって?」
「大したことじゃないんだけどさ。ユキナの家ってたこ焼き器ってあるの? それと関西では各家庭でソースを何種類も常備してるってホント?」
俺はせっかくの機会なので、ネットでよく言われている関西人あるあるについて尋ねてみた。
するとなんということだろうか!
「実家にたこ焼き器はないけど、ソースは色々あるよ。えーとウスターソースでしょ、お好み焼きソースでしょ――」
ユキナは指を折々、数えはじめたのだ!
すぐに片手では足りなくなってもう片方の指に突入する。
「とんかつソースでしょ、串カツソースでしょ、あと焼きそばソースとデミグラスソースもあるから、うちは全部で6種類かな?」
「6種類も!? すごい、すごすぎる、これが関西人なんだな! 俺なんてソースって言ったら中濃ソースで全部済ませるのに、ソースにかける情熱が違いすぎるよ! さすが粉ものの本場関西だ!」
関西の食文化をまざまざと見せつけられた俺は、今日一番の興奮と感動を言葉にしてユキナに伝えた。
「あはははは……」
そんな俺に、ユキナも今日一番の苦笑いを返してくる。
「他に関東に来て『これは!』って思ったことって、なにかあったりするか?」
俺はせっかくついでに聞いてみた。
俺の関西力を格段にアップするチャンスだ。
みすみす逃す手はない。
「食べ物なら一番はカップ焼きそばかなー」
「ペヤングとか?」
「そうそうそれそれ。関西だと日清のUFOがデフォだからどこに行っても絶対UFOが置いてあるんだけど、こっちだと小さなスーパーとかコンビニだとペヤングはあってもUFOがなかったりするんだよね」
「俺もカップ焼きそばはペヤングしか食べないけど、そんなに味が違うもんか? どっちも同じカップ焼きそばだろ?」
そりゃまぁちょっとくらいは違うだろうけど。
「違い過ぎてもはや別物ってくらいだね」
「へー、そんなになのか」
「関東の味付けにもだいぶ慣れたんだけど、それでもわたしペヤングだけは食べれないんだよね。薄すぎてカップ焼きそばを食べてる気がしなくて。やっぱりカップ焼きそばは不健康なくらいに濃厚なソースじゃないと」
「それはいいことを聞いたな。よし、今度カップ焼きそばを買う機会があったらUFOを買って関西人の感性に挑戦してみるよ」
俺は自分の関西力がメキメキと上昇していることを感じていた。
もはや準関西人と言っても過言ではないだろう。
やはり持つべきものは関西人の友達だな!
「あ、あと関東だとスナック菓子のカールが売ってないよね。クルっと曲がってる明治のやつ。たまにチーズ味が食べたくなるのに」
「ああ、なんかそんな話もあったっけ? 何年か前に関西限定になったとかなんとか」
あんまりカールを食べないから気にしてなかったけど、そんな話があったような気がしなくもない。
「あとはやっぱりエスカレーターだよ。右側を開けるのにはまだちょっと慣れないかも」
「それは良く聞くな。東西でエスカレーターの歩く側が逆になってるんだよな」
「そもそもほんとは歩いちゃダメらしいけどね」
「車の速度規制みたいなもんだな。ルールを守ってたら日常生活がとても成り立たないっていうか」
「あ、その言い方だとカナタさんって免許持ってるんだ?」
「もちろん持ってるぞ。なにせ運転免許証は身分証として最強だからな」
「だよねぇ、身分証として免許証を見せてダメなことってまずないもんね」
「ちなみにゴールド免許だ」
「つまりペーパードライバーってこと?」
「うぐっ……だってほら、都会じゃ車に乗る機会がまったくないだろ? 電車がバスでだいたいのところは行けるしさ。そもそも車は高くてとても買えないし、こんな街中だと駐車場代だけで死ねるから……」
「だ、だよね……」
俺の悲しい告白を聞いて、ユキナの顔がわずかに引きつった。
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