第47話 関西風のラーメン

「けど本当の本当に感謝はしてたんだぞ? この部屋に住むようになってもう結構長いんだけど、自分で作らずに熱々のラーメンが出てくるなんて初めてだったからさ」


「それは分かってるしー。ま、でも? ただのラーメンかどうかは食べてからのお楽しみかな?」


 ユキナがニヤリと笑った。

 自信といたずら心に満ちたその笑顔は、言うなれば小悪魔ユキナ。


「ということは――」

「もちろん関西風のラーメンだよ。カナタさんが喜ぶと思ってねー」


「マジか!?」

「マジマジだよー」


 その言葉に俺は期待に胸を弾ませながら、いてもたってもいられずにスープをレンゲで口に運んだ。

 ずずっ……。


 果たして関西風ラーメンの味とはどんなものなのか――!?


「……なんていうかすごく薄味だな? 俺の知ってるラーメンと全然違う。関西人はこんなさっぱりしたラーメンを普段食べてるのか?」


「そうだよー、って言っても作り方に書いてある通りに作っただけなんだけど。うん、いい味っ♪」


 いぶかしがる俺とは対照的に、ユキナは関西風の薄味ラーメンスープにご満悦だ。


「ユキナの個人的な好みじゃなくて?」

「外で食べたらだいたいこんな味だから、関西全域ほぼほぼこんな感じだと思うけど?」


「マジか……ここまで違うともはや別もんだろ……」

 俺はキラキラと透き通った透明度の高いスープをレンゲですくうと、マジマジと見つめた。


「そう、別物なの!」

 しかしそこでユキナが珍しく大きな声をあげた。


「ユキナ? 急にどうした?」


「実を言うとね、私、東京のラーメンはしょっぱくて油っぽくてとても食べれないんだよね……」


「まぁこれだけ違うとなぁ……」

 濃いラーメンを食べ慣れていたら、薄味のラーメンもちょっとインパクトに欠けるくらいでそれはそれでありかも、くらいで済むだろうけど。

 その逆は辛そうだ。


「油と醤油で黒く濁ったスープを見ると、正直食欲がなくなっちゃうんだよね……」


「こっちでラーメンって言ったら、こってり濃厚で油っぽいもんだけどなぁ」

「もうね、関東のラーメンとうどんは、ほんとしんどいんです」


「うどんもか。関西人はほんと薄味文化なんだなぁ」

「ソースをかける時は濃厚一択だけどね。それこそドバドバっといっちゃいます」


「うーむ、薄味好きの関西人が、なぜにソースは濃いのが好きなのか……」


 謎すぎる。

 まぁ俺の頭で考えたところで解決はしないだろうから、そういう文化だと理解しておこう。


 お互いの異文化ラーメンの話を共有しながら、俺たちは二人してラーメンライスを完食した。

 スープが薄味だったのもあって最後の一滴まで飲み干してしまった。


 最初はインパクトがない――なんて思っちゃったけど、結構気に入ったかも?

 細めんにスープがしっかりと絡むから、そこまで薄さを感じないんだよな。


「ごちそうさま。美味しかったよ……、ふぁーあ」

 と俺はお腹をさすりながら盛大にあくびをしてしまった。

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