第49話「あ、足くらいならマッサージしてもらってもいいよ?」
な、なっ!
なんてことを言ってんだよ俺は!?
冷静に考えたら今の発言はヤバすぎだろ。
部屋に連れ込んだハタチの若い女性に、
「マッサージしてあげるよ。な、いいだろ? お礼だからとっととマッサージさせろよねーちゃん!(ゲヘヘ)」
もはや『犯罪を疑われる』ってレベルじゃねぇ!
ズバリ犯罪そのものだった。
この場で即お巡りさんを強制召喚されて、えっちな現行犯として一発アウトな案件じゃないか!
「ち、違うんだ。今のは深い意図はなくて――って、なくて言ったらそれはそれでかなりまずいんだけども」
「えっと、あ、うん」
「とりあえずそういう下心は本当になくて、純粋にユキナにお礼をがしたいと思ったんだよ。そしたらデートで結構歩いたし足が疲れてるだろうなって思って。つまり何が言いたいかと言うと、変なことを言ってしまい誠に申し訳ございませんでした!」
俺は超早口でまくし立てると、間髪入れずに土下座をして謝罪した。
ほんとマジのガチにさっきの発言はマズかった。
通報されてもおかしくないレベルでマズ過ぎた!
『勘違いしたキモいおっさん』認定されたまである!
「カナタさんが変なこと考えてないのは分かってるよ? だから顔をあげて、ね?」
「そ、そうか?」
俺が恐々と土下座状態からチラリとユキナの顔を見上げると、ユキナは少し困ったような苦笑いを浮かべていた。
どうやら本当にキモがったりはしていないようだ。
ユキナは心が広いなぁ……。
「それにその……あ、足くらいならマッサージしてもらってもいいよ?」
しかも、なんか頬を少し赤らめながらそんなことを言われてしまった。
だがしかし今は撤退がなによりも最優先だ。
ユキナの気持ちが変わる前に、完全に無かった話にしてもらわなくてはならない。
「いや、やめておくよ」
だから俺は完全撤退の意思を表明したんだけど、
「してくれるって言ったじゃん!」
なぜかユキナは有言実行を求めてきた。
しかもキレ気味で。
「なんでキレ気味なんだよ」
「カナタさんがマッサージをしてくれるって言ったのに、やっぱりしないって言うからでしょ」
「つい言っちゃったんだけどさ? やっぱりマズいだろ、それは」
自宅にあげた女子大生の身体を、マッサージにかこつけて触るのはどう考えてもアウトです。
「自分から言い出したことを『なかったこと』にする方がマズくない? そういうわけだから、足のマッサージをお願いしまーす♪」
言うが早いかユキナがタイツを脱ぎ始めた。
「あ、おい――」
俺が制止する前にユキナは両足ともタイツを脱ぎぎってしまう。
脱ぐ時の衣擦れの音が、驚くほど鮮明にに俺の耳に響いた。
今、すらっとした雪のように真っ白なユキナの生足が、俺の目の前にある。
ご、ごくり……。
目の前で衣服を脱いで素肌を晒すという行為に、なんとも強烈に緊張してしまうのは、俺がいい年して童貞なせいなのだろうか。
タイツを脱いだだけで下着を見せたわけでもなんでもないんだけど、どうにも強く意識してしまう。
「場所はカナタさんのベッドでいいよね? お邪魔しまーす」
「あ、おい――」
これまた俺の返事を聞かずにベッドの上に上がったユキナは、躊躇なくうつ伏せに寝転んだ。
必然的に俺がユキナを見下ろす格好になる。
「くんくん。カナタさんの匂いがするー」
「……」
「ほらカナタさん、早くー」
ちょっとお行儀悪くユキナが足をバタバタとする。
おいこら、スカートがめくれて太ももがかなり際どく露わになってるからやめなさい。
などと言うと、それはそれでセクハラになりそうで言えないのが、どうにももどかしい。
くっ、このまま足をバタバタされ続けては、不可抗力的にチラリと見えてしまうかもしれない。
そうなると色々とマズい。
主に俺の理性的な意味で。
俺は一度大きく深呼吸すると、
「じゃあやるからな?」
そう言って寝転がったユキナの足をまたぐようにしてベッドに上がった。
「よろしくねー」
よし、これでスカートの裾から下着ががチラリしてしまう事態は避けられたぞ。
さらに俺は、あくまで足をマッサージするだけであって、いかがわしいことをするわけじゃないんだと何度も自分の心に言い聞かせた。
――というようなことがありまして。
俺はユキナの足をマッサージすることになってしまったのでした。
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