第18話「カナタさん、マジ説教くさい……」

「え? ああいや、そういう意味じゃなくて。俺みたいに30過ぎた作家志望は、仮に作家になれたとしても20代前半でデビューする若い作家と比べて10年以上スタートが遅いだろ?」


「まぁ、そうだよね」


「だから読者とレスバトルしてる暇があったら、その10年の差を1年分でも半年分でも埋める努力をしないといけないんだよ」


「ぁ――」


「そもそも俺はまだそのスタートラインにすら立てていないわけで、だから今ある時間は全て創作に――ユキナの言葉を借りれば、生産性がある行為に費やしたいんだ」


「うん……」


「確かにきついことを言われたら悲しくなる、ヘコみもする。だけど俺は絶対に書くのをやめないし、創作を嫌いにはならない。俺は俺が信じる最良の創作をする。そしていつか絶対にプロの小説家になってみせる」


 俺はあの日そう誓ったのだから――。


「……カナタさんは強いんだね。もしこれを書かれたのがわたしだったらきっと――ううん絶対に逃げちゃうよ。書くのをやめちゃう」


「ま、俺もワナビやって長いからな。俺なりに色々あったし、プチ炎上も何度か経験あるし。これくらいじゃあへこたれないよ。なにせ俺は夢に向かって進んでる真っ最中なんだから、へこたれてたまるかよ。俺の人生は、他でもない俺だけがやり遂げられるんだから」


「夢……かぁ」


「ユキナも夢を持てよ? 夢はいいぞ? 世間からは後ろ指さされて、同窓会にも顔を出しにくい30代の独身バイト生活でも、夢のためなら他人が思うほどには苦にはならないし」


「それ地味に笑えないんだけど。想像するだけでちょお悲惨じゃん? 昔の同級生もカナタさんに気使いまくりでしょ?」


「うぐっ、まぁそれくらい夢は人間にとってものすごいパワーになるってことだよ」


 実をいうとちょうど3年前くらいに、創作に対する俺の立ち位置を固めるに至った『とある事件』があったんだけど。

 ユキナにそこまでを伝える必要はないだろう。


「じゃあそろそろ俺もシャワー入ってくるな。ユキナは先に寝てくれていいから」

 そう言って俺は会話を打ち切った。


 重い話は終わりとばかりに、ノートパソコンの電源を切り、両手を上にあげてウーンと大きく伸びをしてあっけらかんと言ってみせる。


 俺が言葉を尽くしても、まだ若いユキナが完全に納得がいくことはないだろう。

 こればっかりは頭の良さではなく、人生経験がものを言うだろうから。


 そんな俺の意図をユキナもくみ取ってくれて、


「わたしの寝込みを襲う的な?」

 ユキナは小悪魔っぽく言ってきた。


 さすがは国立大学生。

 頭がいいだけあってそれなりに気持ちを切り替えられたみたいだな。


「あのな、あんまり男にそういうことばっかり言ってると、そのうち本当に襲われるからな? ほどほどにしておけよ? あ、これは善良な大人からの向こう見ずな若者へのアドバイスな」


「カナタさん、マジ説教くさい……」

「……」


 この返し、マジきっつ……。

 くそぅ。

 純粋な厚意から言ったってのに、一言で容赦なくぶった切られてしまったぞ……。


 Web小説を一緒に仕上げたとはいえ、俺たちは今日が(もう昨日だけど)初対面なのに、最近の若い子ってほんとはっきり自分の意見を言ってくるよね。


 会ったばかりの年上相手に平気でズケズケ物を言っちゃえるところに、埋めようのない世代間ギャップを感じてしまう俺だった。

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