第17話「俺の残り時間は少ないからな」
「ええっ、参考にするの!? 書き直すってこと?」
それを見たユキナが驚いたような、抗議するような声を上げる。
「書き直しはしないよ。俺はこの展開の方が物語が良くなるって思ったからそうしたわけで、参考にするっていうのはあくまでそういう意見もあるよなって意味でだよ」
「じゃあせめてカナタさんがこんな風に書いた理由を説明して、言い返してやればいいのに……」
「人の数だけ意見があって、俺のWeb小説を見た人の数だけ感想もあるんだ。人それぞれ色んな見方があるんだから、そこの正邪を争う必要はないだろ?」
「ぶぅ……」
俺がそんな風に説明しても、ユキナの不満はまだ解消されてはいないみたいだった。
唇をとんがらせて露骨にむくれている。
そんな不満そうな顔もちょっと可愛いかったりする。
でもそうだな。
まだ若いユキナが人間不信にならないためにも、もうちょっとだけ言葉を尽くしておくか。
俺はユキナの保護者になった気分で説明を付け加えた。
「俺は最新話のこの場面は、主人公が合理性を捨ててでも熱い勢いで突っ切るほうが若者の恋らしくていいと思った」
「でしょ!? だったら――」
「だけどこの読者は逆にそのことを不満に感じたんだ。これはただ『それだけ』なんだよ」
「それだけって……」
「単なる価値観の違いなんだよ。そりゃたしかに言い方はちょっときついけど、この人が言ってること自体は、おおむね間違ってはいないと思うし」
「だから『参考にします』なの?」
「そういうこと」
「ぶぅ……」
納得は――してくれないよな。
ま、そりゃそうだ。
俺も若い頃なら、こんな風には思えなかっただろうし。
「俺はチョコミント好きなんだけどさ」
「え?」
「チョコミントを嫌いな人ってかなりいるみたいなんだよな」
「あ、うん。わたしもあんまり好きじゃないかな。なんか歯磨き粉みたいで」
「なら話は早いな。同じチョコミントでも、俺とユキナで受け取り方は文字通り正反対な訳だろ? でも俺とユキナは別に敵対しているわけでも、犬猿の仲でも、アンチなわけでもない」
「……Web小説の感想も同じってこと?」
「誰かの考えが正義で、違う誰かの考えが悪なんじゃなくて、単にとらえ方の違いに過ぎないだけなんだよ」
そしてきっとどちらも等しく正しいのだ。
「言いたいことは分かったけど……ねぇ、カナタさん?」
「なんだ?」
「カナタさんは悲しくならないの? 『失望しました』なんてきつい口調で書かれて、創作が……書くのが嫌になったりしないの?」
尋ねてくるユキナの目は恐ろしい程に真剣だった。
軽口を言ってくるときの目とは全然違った、何らかの強い想いが込められたような目をしている――気がするようなしないような。
これは適当に返していい場面じゃないな、と。
人の想いに鈍感な俺でもさすがに理解ができた。
それにしてもさっきからユキナは、この話題にやけに深入りしてくるな?
必死っていうか。
もしかしてユキナも過去に『失望しました』みたいなことを言われて、何かを嫌になった経験があったりするんだろうか?
部活だったり勉強だったり。
創作に限らず失望されることは、生きていればままあることだから。
ふとそんなことが頭をよぎったものの。
昨日今日出会ったばかりの相手にそこまで突っ込んだ質問をするのは気が引けたので、その件について俺がユキナに尋ねることはなかった。
だから俺は聞かれたことに対して、自分の思いを返していく。
「そりゃあ悲しいよ、俺も人間だからな。批判されればヘコむし、きつい言葉を投げかけられればもちろん悲しくなる。逆に褒められたり嬉しい感想が来たらつい顔がニヤてしまうし」
「じゃあ――」
「だけど俺は書くのを嫌いにはならないし、言い返しもしない。言い返す時間があれば、俺は創作するためにその時間を使う。俺の残り時間は少ないからな」
「え――? カナタさん、もしかして重い病気なの?」
俺のその言葉に、ユキナが大きく目を見開いた。
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