第16話「茶化さないでよ」
「名前こそ『応援コメント』だけど、実際の用途はただの感想欄だからな。中にはこういうのもあるさ。いちいち気にするなってば」
「でも『失望しました』なんてひどいよ……こんな風に言わなくてもいいでしょ……一生懸命書いたのに、言われた方はすっごく悲しいよ……」
「だからイチイチ気にしないでいいんだって」
「わたしのことじゃないもん、カナタさんのこと言ってるんだもん」
「なんだ、俺のこと心配してくれるのか? まだ若いのに他人を思いやれるなんて偉いぞユキナ」
「茶化さないでよ」
「……ごめん、今のは俺が悪かった。もう茶化さないから。ま、今回の話はちょっと強引だったから、そんな風に思う読者がいても仕方ないってこと」
「でもこんなキツイ書き方って。カナタさんがあんな何時間も苦労して書き上げたのに……」
ぶぅ、とユキナが口をとんがらせる。
「作者が何時間も苦労して書き上げたものでも、読者は5分もあればサクッと読めちゃうからなぁ。作者の努力って読者には無価値なんだよな、究極的には。そこだけはなにがあっても、ごっちゃにしちゃいけないって思う」
頑張ったことで褒められるのは子供だけだ。
大人は常に「結果」だけを求められる。
特に俺みたいにプロを目指しているWeb作家は、アマチュアだからって甘えたことは言ってられないんだ。
せめて心構えだけはプロになったつもりでいないと、アニメ化経験のあるトッププロ作家も参戦しているWeb小説の世界では、とうてい生き残れないから。
「でも……」
「そもそも創作ってのは、過程よりなによりただただ結果だけが全ての世界だしさ。だから創作者と消費者のギャップは、絶対に埋まらないんじゃないかなぁ」
そして俺はいまだにその「結果」を出せてはいなかった。
ここでいう「結果」とはもちろん、プロになるということだ。
とまぁ?
長年結果が出ない俺のような歴戦のベテランワナビは、こんな感じで世の中を達観しつつ、向けられた負の感情もそんなものかと飲みこんじゃえるようになるわけなんだけど。
「ぶぅ……納得いかないし……」
まだうら若いユキナは、そんな大人の達観がどうしようもなく不満そうだった。
若いってほんといいよなぁ。
一途なまでに情熱的に夢を追えるんだから。
仕方ない。
そんなユキナには、とっておきのエピソードを聞かせてやろうじゃないか。
「たくさんの人が協力して作り上げた有名な映画にだって、批判する人は一定層いるんだぞ? 例えばジブリの最高傑作とも言われる不朽の名作『となりのトトロ』だ」
「あ、わたしもジブリ好きだよ? トトロはサツキとメイが健気で可愛いよねー」
「あれだってサツキが家事ばっかりさせられて児童虐待だって、問題視する人がいるんだ」
「えええぇっ!? それはないでしょ?」
「それがあるんだよなぁ」
「……世の中って色んな人がいるんだね」
「また一つ賢くなれただろ? な、それに比べたらこんなの可愛いもんだろ?」
ユキナに一般論を説明しながら、俺は『貴重なご意見ありがとうございます、参考にします』と書きこんだ。
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