第5話 「これは失敬、かなたん先生でしたね」

「名城だからナッシーさん」


「いやそれはどうだろう? なんていうか、船橋市の某人気マスコットキャラに怒られそうだ」


 『ふ●っしーだなっしー!』ってテンション高いあのキャラね。


「じゃあかなたんさん?」

「いや、いい年してかなたんもないかな」


「これは失敬、かなたん先生でしたね」

「先生ではもっとないな」


 『先生』と。

 そう呼んでもらえるのはプロになった一握りの作家だけの特権だと思うから。


 俺は作家志望の素人A。

 どうやっても夢に手を届かせられないでいる、ただの夢見るワナビの一人だから――


「じゃあカナタさんならいい?」

「まぁそれなら」


 できれば名前より名字で呼んでもらうほうが俺の心中は穏やかなんだけど、「かなたん先生」よりははるかに許容範囲だった。


「それで最初の話に戻るんだけど、俺に何の用なんだ? えっと……ユキナ」


 俺は再びの質問をした。

 名前も頑張って呼んでみた。

 とてもドキドキした。


 ふぅ……やれやれ……。


「うーん、これって理由はないんだけど、強いて言うならカナタさんの小説が気になったから?」

「なんで疑問形なんだよ?」


「だから強いて言うならって言ったじゃん。なんとなく興味を持ったっていうか、これも一つの縁みたいな? めぐり合わせ的な?」


「そこに俺の方から縁を結ぶ要素は、欠片もない気がするんだが……」


「もう細かいことはいいじゃん? それより切羽詰まってるみたいだけど、締切でもあるの?」


「まぁな」


「でもカナタさんが書いてるのは自由に誰でも書けるWeb小説なんだよね? なのになんで締切があるの?」


「Web小説は毎日更新がデフォなんだ。だから今日アップする分を、今日中に書き上げないといけないってわけ」


「今日中って、もう夜の10時前なんだけど」


「だから邪魔して欲しくなかったんだよ……」


 俺は小さくため息をついた。


「えへへ、めんちゃい。でも毎日更新ってことは毎日更新してるの? それって大変じゃない?」


「大変でも、やらないとすぐに読んでもらえなくなるからな。仕方ない。これがWeb作家の宿命だ」


「そうなんだ? だって更新したら、みんな喜んで我先にと読んでくれるもんじゃないの?」


「そういう反応をしてもらえるのは一部のトップランカーだけさ。俺みたいな掃いて捨てるほどいる一般投稿者は、ひたすら毎日更新することで、やっとついてくれた数少ない読者の関心を引き留め続けないといけないから」


「ふぅん、そんなもんなんだね。大変だねー」


「おま……ユキナも投稿してみたらわかるよ、お、やった、フォローが増えてる」


 俺は通知欄を見てにんまりした。

 カクヨムコンにおいて「作品フォロー数」は過酷な読者選考を突破するためのマストアイテム。

 増えて喜ばないWeb作家はいないのである。


「あ、それわたしー。せっかくだからカナタさんの小説フォローしといたよー」


 そしてその言葉を聞かされて心底ガックリさせられた。


 フォローしてきたユーザー名を改めて確認してみると「WhiteRiver」。

 白い河、つまり白河=ユキナだった。

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