第4話 「責任とってね♪」

「ごめんごめん、ほんとにびっくりしちゃって。じゃあわたしがマナシロカナタさんの初めてなんだね、責任とってね♪」


「何の責任だよ? あとその名前はやめてくれないかな、外だと恥ずかしいから……」


 ペンネームの由来は色々あって結構気に入って入るんだけど、外で言われるとさすがに恥ずかしい。


「ふうん、そうなんだ? じゃあなんて呼べばいいかな? おにーさんの名前教えてよ」


「見ず知らずの相手に本名教えるのはちょっと……」


 俺の反応はしごく当たり前だと思う。

 っていうか、こんなすぐに学生証を見せて平気なこの子の方が、俺には異常に思えるんだけど。


「ええっ、わたしの名前教えたじゃん。ってことはもう見ず知らずじゃないわけでしょ? 等価交換だよね」


「難しい言葉を知ってるんだな。ちょっと驚いたかも」

「そう? これくらい大学生なんだから普通でしょ」


「いや普通じゃないんじゃないか? さすが有名国立大生だな」

「えへへ~、そう? まぁ大学受験の時は結構頑張ったんだよねー」


 等価交換は俺みたいなハガレン世代なら、勉強できるできないに関係なく知ってて当たり前の常識中の常識だけど。

 最近の子はそもそもハガレンを知らないだろうしな。


 テレビじゃ日本の高等教育を終えたばかりの若い女子タレントが「応仁の乱って何ですか~? 初めて聞きました~」とか言ってるからな。

 応仁の乱を知らないとか正直信じられないんだけど、しかしこれが現代日本の姿なのだ。


 それに比べてユキナはさっきも「越後屋、苦しゅうないぞ」とか言ってたし、意外とこの子は文学少女っぽいよな。

 そこはかなり好感持てるかも、作家志望的に。


 ああそうか。

 だから小説を書いてる俺を見かけて興味を持ったのかな?


 いくらWeb小説が流行ってるとはいえ、実際に書いている人は言うほど多くはない。


 そう考えると結構有り得なくはない線だな。

 俺はユキナの行動理由にあたりをつけた。


 でもま、そこまで突っ込んだ話をする関係にはならないだろうし、あえてここで聞く必要もないだろう。


 それに名前くらいなら減るもんでもないし、小説に興味を持っているならユキナは俺たちワナビの仲間と言ってもいいはずだ。


 俺はわずかに芽生えた同族意識から、ユキナに対する警戒を少しだけ緩めた。


「……なしろかなた」

「マナシロカナタ? それは投稿用のペンネームなんでしょ?」


「名城彼方(なしろ・かなた)だよ。ペンネームは本名をもじって付けたんだ」


「あ、そうだったんだね、なるほど……ぶっちゃけどっちでも変わらなくない? マがついてるかどうかでしょ? ほぼほぼ一緒じゃん?」


「俺的には全然変わるの! その一文字の差が俺的にはとても大きな違いなの!」


「ふーん、そんなもんかぁ。ところでナッシーさん」

「え? ナッシーさん?」


 突如として変な呼び方をされた俺は、なんとも間抜けな声をあげてしまった。

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