第3話「言っとくけどセクハラだからね、そういうの」
「あ、でも。とってつけたような『もう遅い』がちょっと変な感じかも?」
「そこはいいんだよ。今はとりあえず『もう遅い』ってつけるのが流行りだから」
「そんなものなの?」
「流行り要素ってのはみんなが興味あるから流行ってるわけで、ファン層が薄い作家は流行り要素を入れないと勝負すらできないからな」
「ふーん。あ、わたしこの期間限定パスタとドリンクバーで。あとサラダはこれで、デザートはこのちっこいのね」
「へいへい。えっと合計は……くっ、1450円だと!?」
「ばっちり1500円以下です♪」
「安いミニデザートまで頼んで上限ギリギリ狙ってくるなんて……!」
なんてやつだ、鬼かこいつ。
もしかしなくても俺が大人だから金があるとでも思ってるんじゃないだろうな。
恥をかなぐり捨てて、口止め料は1000円までって言うべきだったか。
っていうかサラダが高いんだよ、サラダが。
なんでお前、草しか入ってない分際で350円とかするの?
おかしくない?
そもそもファミレスでサラダとか頼むなよな。
スーパーに行ったら似たようなミックスのカット野菜が、一袋95円で売ってるだろ?
草を
外でわざわざ高い金を出して草を食べる必要はないと俺は思うな!
まったく最近の若い子は変に意識高いんだからもう。
俺は店員さんを呼ぶと、泣く泣く1450円分の追加注文をした。
「ところで1つ確認なんだけどさ?」
「残念だけどスリーサイズは教えられません。言っとくけどセクハラだからね、そういうの」
「違うってーの。おまえ未成年じゃないだろうな? 俺嫌だぞ、警察のお世話になるの。割とマジな話で」
「マジな話って?」
女の子がキョトンとした顔で首をかしげる。
「保護者のいない18歳未満は、22時以降はファミレスとかにいちゃいけないんだよ。世の中には青少年保護育成条例ってのがあるんだ」
なんで俺がそんなもんを知っているかというと。
世知辛い昨今、30代にもなると色々と自衛しなければならないからである。
知らないでは済まされないのが法律であり(ただし金持ちと権力者は除く)。
その法律によって犯罪者予備軍のごとく多方面から狙い撃ちされまくっているのが、俺たち30歳を超えた男性なのだった。
行政の出している不審者情報で時々――どころか頻繁に『30代男性が住宅地をうろついていた』とかリアルにあるのがほんと笑えない。
我が日本国において、俺たち30代男性は下手にその辺を散歩もできないのである。
つまりもし目の前の少女が未成年だったとしたら、21時を大きく回った今はかなりデンジャラスな時間帯に入りつつあるわけで。
俺がこの子の年齢を危惧するのはそれはもう当然のことだった。
余談だが2022年の民法改正によって、成年の定義は従来の20歳から18歳へと引き下げられ、それに伴い青少年保護育成条例も18歳未満に引き下げられている。
おかげでほんの少しだけ危険は減った。
「あ、それなら大丈夫だし」
そう言うと女の子は財布から学生証を取り出して見せてくれた。
この近くにある有名国立大学の2年生だ。
うわっ、すごく頭いいんだな。
「良かった、うん、ちゃんと成人してるな。高校生くらいに見えたから不安だったんだ。えっと、白河雪那(しらかわ・ゆきな)さん?」
学生証には当たり前だけど名前も一緒に記載してある。
白河雪那。
雪国をイメージさせる風光明媚な名前だ。
いいな。
今度こっそりヒロインの名前に使っちゃおっと。
「そんな若く見えちゃう? えへへへ。あ、ユキナでいいよ」
「…………」
「ごめん、なんでここで黙るの? 意味分かんないし」
「いや、女の子を名前で呼んだことなかったから、つい気後れしたっていうか……」
「ぷっ、その年で!? うそぉ!」
女の子――ユキナが幻の珍獣でも見つけたみたいに心底驚いたって顔をした。
「いいだろ別に。女の子を名前で呼ぶことに無縁な男は、世の中にはごまんといるんだよ」
いるよね?
……いる……よね?
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