第2話「ありゃりゃ、無視されちゃったよ」
それに女の子と楽しくお話してたら、狙ったように怖いお兄さんたちが出てきて、
『オレの彼女になにナンパしてくれてんだ? ああん? ちょっと顔貸せやコラ』
とか因縁付けられたら嫌だしな。
「ありゃりゃ、無視されちゃったよ」
「……」
「ねぇねぇお兄さんってばー」
「……」
俺は何を言われても無視を決め込んで執筆を続ける。
「ちょっとー? 女の子が話しかけてるのに、本格的に無視するつもりですかー?」
「…………」
「まったく酷いですね……マナシロカナタさん?」
ガタガタッ!
しかしその一言を聞いた瞬間、俺は大きな音を立てて思わず立ちあがってしまっていた。
なぜならその名前は――、
「な、なんで俺の投稿用ペンネームを知っているんだ!?」
俺が小説投稿サイトで使用しているペンネームだったからだ――!
ちなみに、
真 + なしろ・かなた = マナシロカナタ
ってのが由来だったりする。
「真なる自分」とか今思うと痛々しいことこの上ないんだけど、なにせ決めた当時は俺もまだ若かったからな。
まぁ今は俺のペンネームの由来はどうでもいいとして。
女の子が天使のような笑顔を浮かべながら、スマホの画面をこちらに向けてくる。
「さっき通りがかりにチラッと見えたタイトルを検索したら、すぐ出てきたよ? ほら、『もう遅い?いや遅くない!ラノベ作家を目指す30過ぎのボクに、ある日高校生の彼女ができました』ってやつ。作者、マナシロカナタ」
「ぎゃーーっ!? こんなところで作品タイトルを読み上げるのはやめてさしあげて!?」
でないと俺はこのファミレスに永久に来れなくなってしまうので!
店員さんにもすっかり顔を覚えられているんだからねっ!?
「もう、そんな大声出したら目立っちゃうじゃん? 確かに人に聞かせるにはアレなタイトルだけどさー」
「はっ!?」
我に返って見回すと、他のお客さんが何事かと俺たちに視線を向けていた。
「ねっ?」
「くっ……分かったよ、とりあえず向かいに座ってくれ」
俺がこの場をやり過ごすためにしぶしぶそう言うと、
「はーい♪」
小悪魔な女の子は、まるで天使のように可愛く笑ったのだった。
「しかも他にも似たようなの結構書いてるんだよね? 長編だけで20作以上もあるし。もしかして結構すごい人?」
女の子が座って早々、話しかけてくる。
「残念ながらまったくすごくない」
「あれ、そうなの?」
「俺は数を書いてるだけだから。量産するだけなら割と誰にでもできるもんなんだよ」
『読書感想文しか書いたことがなかったけど、試しに書いてみたら書籍化しました』みたいなことを言っている作家もちらほらいるのが、Web小説という世界だ。
そこに数や経験はほとんど関係がない。
「ふーん」
「それで俺に何の用なんだよ?」
締め切りの時間が迫ってることもあって、俺はやや苛立ちながら単刀直入に女の子を問いただす。
さっき大きな声を出して恥をかいたことで吹っ切れたのか。
初対面の女の子と話しているというのに、緊張はさっぱりしなくなっていた。
バイト以外で初対面の若い女の子と話すなんていう、高い高い壁を簡単に乗り越えちゃうだなんて。
人間なんでもやればできるもんなんだなぁ。
「その前にご飯頼んでいい?」
「にせ……1500円までな。それなら奢るから」
2000円と言いかけて、俺は瞬時に500円減らして1500円と言いなおした。
たかが500円、されど500円。
手取りギリギリ15万円のフルバイト生活でどうにか一人暮らしを成立させている、貯金ギリ6ケタのワナビ俺氏にとって、500円の差は大変でかいのである。
カクヨムのリワード還元率をもうちょっとだけ上げてくれると、とっても嬉しいなぁ……。
「奢ってくれるの? やったぁ!」
「言っとくけどこれは口止め料だからな? いえ口止め料です、だからどうかこのことはあなた様の胸の中にそっととどめおいて下さい、なにとぞ」
「うむうむ越後屋、苦しゅうないぞ」
「約束だからな? 家から5分のこの愛用ファミレスで『もう遅い?いや遅くない! ラノベ作家を目指す30過ぎのボクに、ある日高校生の彼女ができました』なんて作品を書いていることが店員さんに知られちゃったら、俺はもう2度とここに来れなくなるんだからな?」
「念押ししなくても分かってるってば」
「もちろん後からネットで晒したりするのもやめてくれよ?」
「もう心配性だなぁ。別に他のも似たようなタイトルだったし、最近はこういう男の子がつい見たくなるようなタイトルにするのが流行りなんでしょ? いいんじゃない?」
「そ、そうか?」
「うん、男の子の欲望に忠実って感じ?」
「ですよね~~」
女子の率直な感想、ありがとうございました。
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