第32話「友達になるのに年の差って関係なくない?」
「ああでも、俺とユキナじゃ年齢が一回り以上離れて――」
「友達になるのに年の差って関係なくない?」
「……まったくもってその通りだな、うん」
反論の余地なし、ド真ん中のド正論だった。
いや社会的にどう見られるかという観点からは、余地がないわけでは全然全くないんだけど。
それでも今はそんなものよりも俺とユキナ、個人と個人の関係性という点においてのみ考えるべきだろう。
ユキナはもう俺を友達だと認識しているようだった。
ってことはつまり、後は俺の認識次第なわけで。
「わたしたち、もう友達だよね?」
ユキナがにっこり笑顔で言って、
「そうだな、俺とユキナはもう友達だな」
俺もとても自然にそう返事をしていた。
その後、ラインのともだち登録をしてから、
「じゃあねカナタさん、また遊びに来るから♪」
「え? ああうん、またなユキナ」
バイバイと手を振ってからアパートの階段を降りていくユキナを、俺は冬朝の寒風が吹き抜ける玄関口で見送った。
時おり振り返っては嬉しそうに手を振ってくるユキナが完全に見えなくなってから、俺はようやっと部屋へと引っ込んだ。
なんとなくスマホを取り出して、ラインのともだちリストを確認してみる。
もちろんそこにはユキナの名前が登録されている。
「なぜかとんとん拍子で女子大生の連絡先を手に入れてしまったぞ……??」
現役女子大生の連絡先か……なんともむず痒い響きだな。
30過ぎの男性にとっては強烈すぎるパワーワードというか。
「だから何するってわけではないんだけどさ。でも嬉しくないと言えば嘘になるよな」
ちょっとだけウキウキしている自分がいた。
もちろん「ユキナは俺のことが好きなのかも?」なんてバカな気持ちになったりはしない。
俺もいい加減、夢を見ながら同時に現実が見えてしまう切ないお年頃なので。
「でも久しぶりにプライベートで人と話したなぁ。しかも女子大生と自分の部屋で2人きりで。なんだこれ、現実感なさ過ぎだろ。こんな雑な展開を書いたら読者からツッコミ入れられまくりだぞ?」
そんなことを考えつつ、ともだちリストに登録された「ユキナ」という文字をしばらく眺めてから、
「おっとと、もうこんな時間か。さっさと執筆しないと」
俺は少しだけ浮ついた気分から、30代バイトワナビという現実に思考を戻すと、執筆にとりかかった。
俺は割と気持ちの切り替えが早い方で、だからもはや浮ついた気持ちはほとんどない。
でもなんとなく。
今日はいつもより少しだけパソコンを打つ指の運びが軽やかな気がした。
午前中はガッツリ執筆をして、毎日更新の最新話は昼の12時過ぎにはアップする。
さらに午後も執筆をしているとすぐに夜になった。
「よし、今日は12000字くらい書けたか。更新ストックが1週間分くらいできたし、気になってたところも修正できたし。今日はやりたいことを全部やれたな」
筆が乗って、質も量もなかなかの執筆具合に満足しながら俺はベッドに横になる。
リモコンを操作してテレビをつける。
もちろんニュースやバラエティを見たりはしない。
録画していた深夜アニメを見るのだ。
いい年して深夜アニメかよと思うかもしれないけど。
深夜アニメは人気の漫画やラノベからさらに選び抜かれたごく一握りの超人気作が顔を並べる、いわば人気と流行の最先端だ。
小説家になろうやカクヨムのランキング上位作を読んで流行りを研究するのと同じくらいに、重要なインプット作業だった。
まぁ純粋に好きだってのもあるんだけど。
ちなみに俺は見るのも書くのも異世界ファンタジーが一番好きなんだけど、最近精力的にチェックしているのは現代ラブコメだ。
一時期は下火だったのが再び流行りだしている現代ラブコメを、今書いている自作と比較しながら鑑賞しつつ、
「ふあ~あ……もう寝るか」
睡魔に背中を押されるようにして俺は眠りついた。
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