第31話 『女子大生の連絡先』というパワーワード

「えっ、てなに? 今カナタさんが何に驚いたのか、さっぱり分からないんだけど」


「いやだって、え? 連絡先を交換するの? 俺とユキナが?」

 突然の想定の範囲外過ぎる提案を受けて、困惑しきりの俺に、


「でないとこれから連絡取れないでしょ?」

 ユキナはあっけらかんとした口調で、そんなことを言ってくるんだよ。


「連絡って、なにか俺に連絡を取る用事でもあるのか?」


 そこまで言って、俺は最悪の事態に思い至った。

 思い至ってしまった――!!!!


 あまりの恐怖に身体が震えはじめる。


「ま、まさか強引に家に連れ込まれたとか言って俺を訴える気なのか!?」

「ええっ?」


「なんて奴だこの人でなし! あ、いえ。すみません俺が悪かったです、どうか許してください。実は結構生活が厳しいんです。訴訟とかになっちゃうといい年して実家に帰らないといけなくなりますので、なにとぞ穏便に……」


 『兵は神速を尊ぶ』の故事成語のごとく、俺は速攻でごめんなさいをした。

 貯金ギリ6桁しかないしがないワナビには、裁判費用とか弁護士費用とかとても支払えませんから。

 よく知らないんだけど、弁護士を雇うのってお高いんでしょ?


「なに言ってるのよカナタさん、そんなことしないってば」


「だったら俺と連絡先を交換して、いったいなにをする気なんだよ?」

 俺が声を震わせながら戦々恐々としながら尋ねると、


「なにをって、友達と連絡くらいするでしょ? さっきからカナタさんはなにを疑問に思ってるの?」


 ユキナはさらっとそんなことを言ったんだ。


「友達? 誰と誰が?」

「もちろんわたしとカナタさんが」


「いや俺たちはただの知り合いだろ? 終電なくなったから仕方なく泊めてあげただけで」


「…………」

 俺の返答を聞いたユキナの顔から一瞬にして表情が失われた。


「えっ、何その反応? だって友達って、一緒に遊んだりメシ食ったりする間柄のことだろ?」


「一緒にご飯食べて、一緒に小説書いたじゃん? あと一緒に寝たよね?」


「い、いいい一緒には寝てないからな!? お、おお同じ部屋で睡眠をとっただけだからな? 俺は社会的に踏み越えてはならない一線を、決して踏み越えてはいないからな? 信じてください!!」


「もう冗談じゃんかー、真に受けないでよねー」


「女性の冗談はな、男をいとも簡単に社会的に抹殺しちゃうんだよ」


「抹殺ってそんな大げさな……」


「いいやユキナも社会に出れば分かるよ、現代社会が30過ぎた男にとっていかに理不尽で残酷かってことがさ」


「はぁ……」


 ユキナは納得してないけど一応理解できなくもない――みたいななんとも言えない顔をした。


 でもそうか。

 改めて状況を鑑みるに、俺とユキナは友達と言えなくもないのかな?

 俺自身、今もこうやって友達感覚で普通に話せているわけだし。

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