第30話 関西という異世界への憧れ
「知ってんじゃねーか! しかも詳しいな?」
「てへへ、まぁね♪」
「はっ、そうか! これが本場関西のボケってやつか! すごい!!」
「ええっと、うん、ありがと……?」
「いやー、さすが関西人だな。何気ない会話にさらっとボケを仕込んでくるなんて。しかも反射的にツッコミを入れさせられてしまったぞ。マジすごいな関西人のトーク力!」
「なんかカナタさんのボケへの反応の仕方が、過剰すぎてちょっと怖いかも……」
なぜかユキナがドン引きしていた。
なぜだろう。
この高揚感が分からないなんて不思議だ。
「それにしても育成ドラフトなんて言葉が、まさか女子大生の口から出てくるとは思わなかったよ。
「実はお父さんが生粋の阪神ファンなので、野球はそこそこ分かります。好きな選手は3番センター近本くん」
「おおっ、そういうことか、なるほどな! 阪神ファンのお父さんの影響で女の子なのに野球が分かるとか、いかにも関西人っぽい設定じゃないか。まさに俺のイメージ通りだよ。ナイスユキナ!」
ちなみに近本光司は入団1年目からレギュラーになり、最多安打や盗塁王のタイトルをいくつも持つ阪神タイガースの誇る俊足外野手だ。
「……ほんと思うんだけど、カナタさんの関西人観ってちょっとおかしくない? あと設定じゃないからね? リアル関西人だからね?」
「ユキナは関西生まれだから、関西という異世界に対する俺たちの憧れが分からないんだろうなぁ」
「異世界への憧れって……同じ日本だし、新幹線で2時間半でついちゃうし」
「いやいやユキナ、謙遜する必要はないぞ。ユキナは世界に選ばれた人間だ、誇っていい」
「ぜんぜんちっともこれっぽっちも謙遜してないんですけどー」
「いやいや。必要とあらばナチュラルに関西弁が話せて、野球の話が分かり、会話中のさりげないボケもお手の物。そして料理は薄味。完ぺきだよユキナ、君はまさに俺の思い描いた理想の関西人だ。ユキナと出会えて俺はほんとうに感謝してる。神様っているんだなぁ」
「ええぇぇ、そこまで……?」
「いやー、俺の人生でまさか関西人の、しかも社長令嬢と知り合う日が来るとは思わなかったよ。人生って何があるか分からないもんだなぁ」
「カナタさんがそれでいいなら、いいんだけどさー。あ、そうだ。知り合ったといえば連絡先交換してなかったよね。カナタさんラインやってる? ID教えてよ?」
言って、ユキナが小さなバッグからスマホを取り出した。
よくわからないけどちょっと高そうな感じのバッグ。
身に着けてるアイテム一つにもお嬢様感があっていいね。
俺の
「えっ?」
しかし俺はその行動に、今日一番に驚いた声をあげてしまった。
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