第29話 カクヨムコン
その後、俺はユキナの手料理を心行くまで堪能した。
「洗いものもやるよー」
と、甲斐甲斐しく申し出てきたユキナを制した俺は、
「ふんふんー」
鼻歌混じりの慣れた手つきでサクッと洗い物を済ませると、食後のお茶を2人分淹れる。
年を重ねるごとに、食後に日本茶を飲まないと落ち着かなくなってきたんだよなぁ。
死んだ爺ちゃん婆ちゃんが昔いつも食後にお茶を飲んで気持ちよさそうに一服していた気持ちが、そろそろわかる年齢に入りつつある俺だ。
「それで今日はこの後なにするの?」
2人でお茶を飲んでまったりしていると、ユキナが尋ねてきた。
「もちろん執筆だよ」
「一日中?」
「そうだよ」
「こんなに天気がいいのに、遊びに行ったりしないの?」
「もともと休みの日はほとんど一日中執筆してるから」
「うわっ、それほんと?」
「ほんとほんと。それに今は年に一度のカクヨムコンの終盤戦だからな。後悔はしたくないから、やれることはやっておかないと」
「カクヨムコン――」
「悪い、そりゃ知らないよな。えっとカクヨムコンってのは、俺が主に書いてるカクヨムって小説投稿サイトで年に1回行われる大型コンテストなんだ」
「あ、うん……」
「俺たちみたいなアマチュアだけじゃなく、アニメ化されたプロ作家まで参加するすごいコンテストなんだぞ?」
「そ、そうなんだ……」
「最新話を書きつつ、以前にアップしたところで気になってるとこも手直ししたいしな。やることは山ほどあるから、書かずに休んではいられないんだ」
実を言うと毎日更新の期限がやばくて、それでも毎日更新は必須だからと完成度が低いままアップした話がいくつかあった。
カクヨムコン終了までに――できればなるべく早いうちに――手直ししなければいけない。
「まだプロでもないのに大変な世界なんだね」
「逆じゃないかな、多分」
「逆って?」
「どんな世界でもまずプロになるってことが、まず最初の壁としてあると思うんだけど、そのプロになるってことが最も高い壁の1つだと思うから」
「ほうほう」
「例えばほら、プロ野球なんて毎年数十人しかプロになれないだろ? 甲子園を目指して4000校近くも参加してるのにさ。しかもライバルには同世代の高校生だけじゃなくて、かつてドラフトで漏れた大卒や社会人、独立リーグの選手までいるんだ」
「野球で言われても分かんないしー」
「だよな、ごめん」
『巨人・大鵬・玉子焼き』と言われ、野球が日本社会の常識だった昭和ならいざ知らず。
今の若い女の子は野球なんて微塵も興味がないだろう。
昭和生まれと平成生まれ、やっぱ世代間ギャップを感じるなぁ――、
「でも最近は育成ドラフトがあるから、合わせたらプロになる人は100人超えるんじゃない?」
過ぎ去った時代に寂寥感を覚えていた俺の感慨を、ユキナが粉みじんに吹っ飛ばした。
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