第三章 深まりゆく関係
第33話 突然の来訪者
ユキナとの出会いから数日後。
ユキナからは一度、
『泊めてくれてありがとね♡』
というラインがあって少しだけやり取りした以外は特に連絡があるわけでもなく。
俺の方から連絡をするのは色々と気が引けるからせずにいて。
『ピンポーン』
今日も今日とてカクヨムコン用の作品を執筆していると、玄関からチャイムが鳴る音が聞こえてきた。
「……珍しいな。なんだろ、新聞の勧誘かな?」
俺は人付き合いがかなり少なく、お金が無いのでネット通販で物を買うこともあまりない。
さらには家賃その他公共料金の未払いはゼロ。
NHKの受信料もちゃんと契約済みで全て口座引き落としになっている俺の家のチャイムが鳴ることは、基本的にほとんどなかった。
「えっと、どちら様ですか?」
そう言いながらドアチェーンの届くところまでドアを開けた、そのわずかな隙間から見えたのは、
「カナタさん、こんばんは♪」
にっこり笑顔のユキナだった。
「え? ユキナ?」
困惑する俺を前に、ユキナはにっこり笑顔を浮かべてドアの前に立っている。
手には色々入ってるっぽいエコバッグを持っていた。
ネギが顔をのぞかせているから、スーパーで晩ごはんの買い物でもして帰るついでに寄ったんだろうか。
そのまま見つめ合うこと数秒、
「えっと、荷物重いから入れて欲しいんだけど」
「え、うちに入るの?」
「そーだよーん」
「ああうん、わかった」
知らない仲でもないので、とりあえずチェーンを外してユキナを室内に招き入れる。
「あー重かったー」
ユキナがエコバッグを玄関を入ってすぐのところにどさりと下ろした。
「晩飯の食材か? 結構買いこんだな。ってことはユキナはまとめ買い派だな?」
スーパーで長いことバイトをしていると、世の中には2種類の人間がいることに気が付く。
毎日買い物に来ては少量買って帰る人間と、たまに来てまとめ買いする人間だ。
例えば玉子なら前者は2個入りを毎日買い、後者は10個入りのお得パックを2,3個買う。
飲料なら前者は牛乳を1本だけ買うのに対して、後者は数本まとめて買っていくといった具合だ。
ユキナは一人暮らしと言っていたし見た目も華奢だから、フードファイター志望でもなければこの量は明らかに多すぎる。
数日分はありそうな量だと、歴戦のスーパーバイトたる俺は当たりを付けた。
「もう、わたしの分だけじゃないし。こんなに食べきれないし」
「白菜、豆腐、長ネギ、白身魚――タラか? 食材から察するに鍋だな? 大学の友達と家でやるのか? いいな、楽しそうで」
若さを感じる。
「違うよー。この前カナタさんに晩ご飯奢ってもらったから、今日は晩ご飯を作ってあげようと思って買ってきたの」
「別にそんなに気を使ってもらわなくてもいいんだけどな」
俺は素直なお気持ちを表明した。
いくら貧しいフリーターとはいえ、ハタチの学生にそこまで気を使ってもらうと、むしろこっちが恐縮してしまう。
「いいからいいから。いつも一人で食べてるんでしょ? だったらたまにはこういうのもいいんじゃない? もう食材も買っちゃったし。これを持って帰るのってすっごく大変だよ? それに食べきれなくて腐っちゃうし」
「ならせめて半分出すよ。さすがに学生に食費を全額払わせるのは、俺の社会人としての心が辛すぎるから」
でも全額出すとは言えませんでした。
この間、口止め料として1450円も使ったから、次の給料日まで出費を絞っていかないといけないんだ……。
「じゃ、そういうことで。準備するから待っててねー」
という経緯で。
俺はユキナと鍋をすることになったのだが――
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