第27話 「だって家族じゃん……」

「……そんなことはないと思う……よ……だって家族じゃん……」


 ユキナが消え入りそうな声でつぶやく。


「まぁそうだろうな。両親としては当然今でも、俺に『幸せな人生』を歩んで欲しいと思っているはずだろうし」


「で、でしょ!?」


 言わなくなっただけでそれは間違いない。

 本音で言えば孫の顔だって見たいだろう。


「でもそれを言うことで俺がどんどんと追い込まれていくことも、両親は分かっちゃってるんだろうな。だからもうアレコレ言わなくなったんだと思う」


 俺を追い込まないように、夢を追い続ける俺の生き方をむしろ肯定してくれるようになったのだ。


「う、うん……」


「俺はきっとどうしようもない親不孝をし続けてるんだろうな。それに関しては申し訳なく思わない日はないんだ。でも。だけど――」


 俺はそこで少し間を置いてから、言葉に力を込めて行った。


「それでも俺はプロの作家を目指したいんだ。ずっと追いかけてきた夢を道半ばで諦めたくないんだ。たとえそれが親不孝であったとしても、手を伸ばし続けていたいんだ」


「……そうなんだね」


「そしていつかプロになって、それもこれも全部笑い話にして親を喜ばせたい。親の喜ぶ顔を見てみたいって思ってる」


「……」


「ってなわけだから。なかなかデビューできないことも、心配を通り越して応援されるようになっているって話も。どっちも俺にとっては夢に向かう通過点でふと振り返ったときに感じた、なんてことはないしょうもない笑い話に過ぎないってわけさ」


 俺は話に綺麗にオチを付けた。


 ふふん、どうだ?

 この絶妙トークなら、オチとかトークにうるさいと言われる関西人のユキナも納得だろ?


 笑いながら「でも親孝行はできるうちにちゃんとしておいた方がいいよ?」とかツッコミを入れてくるのもウェルカムだぜ?

 もちろん俺は「デビューすることが俺の絶対的な親孝行だから」って返すからな?


「……」


 しかしユキナはツッコミを入れるどころか、すごく真剣な顔で俺を見つめていた。


「あれ、おかしいな? 今のは笑うところだったんだけど」


「ぜんぜん笑えないし……」


「そうか? うーん、さすが関西人だな、笑いのハードルが妙に高い……」


「関西人ぜんぜん関係ないし。もうカナタさんのバカ、本気で心配したのに……」


「それくらい俺には大したことない話だったってことだよ。だからユキナもそんな気にしたり真剣な顔はしないでくれ。さっきも言ったけど俺の中ではこれ、笑い話のつもりなんだからな?」


 本当になんでもないことだったので、俺はそう言ってユキナに優しく笑いかけた。


「あ、うん……カナタさんがそう言うんなら、気にしないことにするね」


 俺が本当にそう思っているってのが伝わったんだろう。

 小さくはにかんだユキナが上目づかいで見あげてきた。


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