第26話 「ごめんなさい……そういう意味で言ったわけじゃなくて……」
「おいおいユキナ、なんて顔をするんだ。沖縄はな、マジすごいところなんだぞ? 俺が行ったのは12月後半だったんだけど、冬なのに最高気温が連日25度を超えてたんだから」
「うん、沖縄はすごくいいところだよね」
「あの時は軽くカルチャーショックを受けたもんだよ。日本は実は広かったんだなって思った」
「分かる分かる。わたしも沖縄は3,4回行ったことあるけど、別世界って思ったもん」
「えっ、海外だけじゃなくて沖縄にも何回も行ってるのか? まだハタチなのにすごいな!」
ユキナの口から次々と出てくるブルジョワなセリフに、俺はどうしようもなくテンションが駄々上がってしまっていた。
「っていうかなんでカナタさんは、さっきからそんなに嬉しそうなのさ?」
そうだろうな、ユキナには今の俺の気持ちは分からないだろうなぁ。
「だって海外旅行が普通とか、沖縄に何回も行ったとか。俺今までそんな会話したことがなかったからさ。なんていうかこう、お金持ち友達キャラのイメージが実感として沸いてきた感があるんだ。これは創作に生かせること間違いなしだ」
「たははは……カナタさんってばなんでもかんでも創作に結び付けるよね、ちょっと焦り過ぎじゃない? もっと気楽に行けばいいのに」
「そりゃ焦りもするさ。十年以上もワナビのままでデビューすらままならないんだからさ」
俺は特に深い意味もなく、自分の現状をさらっと言葉にしたんだけれど、
「えっと、ごめんなさい……そういう意味で言ったわけじゃなくて……」
どうもユキナは、それをとても重い答えとして受け止めてしまったみたいだった。
「え? ああうん、悪意がないのくらい分かってるってば。いちいち気にされる方がむしろ切なくなるから。だからそんなに気にしないでいいぞ?」
「そ、そう? ならいいんだけど……」
「まったくユキナはなんでもズケズケ言ってくるくせに、意外と繊細なところがあるんだな」
「ちょ、なにそれ? わたしはとっても繊細な乙女ですよーだ」
「オッケーオッケー。ならその繊細な乙女の心を、ちょっとした小話で和らげてやるよ」
「小話って?」
「さっきさ、実家にあまり帰ってないって話をしただろ?」
「うん、言ってたね。バイトと執筆で忙しくて帰れないんだよね?」
「でももっと根本的な問題があるっていうか、最近は実家に帰っても逆に居づらいんだよな。親と話しづらくてさ」
「あー、それはなんとなく分かるかも? あれでしょ、結婚とか就職とかの話題がどうしても出ちゃうからでしょ?」
ユキナは俺の境遇を想像して、いかにもそれっぽい推察をしてみせたんだけど、
「いいや、その段階は既に通り越している」
残念ながら不正解だ。
ふふん、まだまだユキナは人生経験が浅いようだな。
「えっと、どういうこと?」
俺の答えにユキナが不思議そうに小首を傾げた。
いい反応を見せてくれるじゃないか。
よろしい、ならば教えてしんぜよう。
いい年したフリーターと親の関係というものを!
「両親から将来を心配するようなことは、もうほとんど言われなくなってるんだ」
「え、そうなの? でもだって自分の子供のことだよね? 親だったら当然、心配するでしょ? しないの?」
「たしかに数年前は『お前もそろそろちゃんとしたところに就職したらどうだ?』とか『カナタも結婚のこととかそろそろ真剣に考えないといけないと思うわよ?』とか会うたびに言われていたな」
「ほら、やっぱ言われてるじゃん」
「でも最近はさ、『人生は一度きりだ、悔いが無いように生きるんだぞ』とか『夢に向かって頑張るカナタをお母さんは応援してるからね』って、逆に今の俺を全肯定して後押ししてくれるんだよな」
「うっ……、えとあの、それはその、なんとコメントしたらよいものやら……」
「きっと世間一般で言う『普通の幸せな人生』を俺が送るということに関して、両親はもう半分諦めが入っているんだろうなぁ」
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