第21話 女子大生と一夜を……。(2)

「自虐とかじゃなくて純粋な疑問なんだけど、30代の男のベッドとか気にならないのかな?」


 世のお父さんがたは洗濯ものすら娘と一緒に洗ってもらえず、毎日悲嘆にくれていると聞く。


「起こすか? いや、気持ちよく寝てるところを起こすのも可哀そうだしな。しゃーない、俺が来客用の布団で寝るか。でも俺、枕が変わるとあんまり寝れないタイプなんだよなぁ」


 そうは言っても既にマイベッド&マイ枕の領有権は失ってしまっている。

 今の俺は国を失った流浪の民……安寧の地を探し求める一匹の迷える子羊なのさ……。


「このまま突っ立てても時間の無駄だし、ポエムってないで寝よ寝よ……」


 俺はルーティーンでしっかりと戸締りを確認してから、エアコンをお休みタイマーにセットすると、部屋の明かりを消した。

 床に敷いた来客用の布団に潜り込む。


 いつもとは違った布団の肌触りが、自分の家で眠るというのにどこか新鮮な気持ちにさせてくれる。

 暗がりで見上げた天井もベッドと比べて少しばかり遠かった。


「うちに誰かが来たのっていつ以来かな? ここ数年はバイト以外の時間をほとんど全部執筆に使ってたから、そもそも人と会うことが自体がなかったもんな」


 週5でフルタイムのバイトをしながら執筆を続けるのは、意外と大変だ。

 1人暮らしだから最低限の家事もやらないといけないし。


 なのでここ数年、執筆以外に使える自由な時間は俺にはほとんどありはしなかった。


 それとまぁなんだ。

 この年齢でまだ叶わぬ夢を追いかけながらバイト生活をしていると、子供も大きくなってすっかり父親らしくなった友人たちには、大変会いづらいというか……。


「少なくとも女の子が泊まったのはユキナが初めてだよな」


 そう考えると今日という日はいつになく特別な一日な気がしてきたぞ?

 俺は暗闇の中でむくりと体を起こすと、布団から抜け出した。


 おっと、一応言っておくけどユキナになにかイケナイイタズラをしようとか寝込みを襲うとか、盗撮をしようとかそういう訳ではないからな?


 俺は机に向かうと、卓上電気スタンドをつけてアイデア帳を開いた。


「今の気分をメモッとこう。ラブコメにいい感じで使えそうだ」


 俺は今感じている事を、順番も何も関係なくあれやこれやとボールペンでアイデア帳に書き連ねていく。


 こんな風に思い付いたら忘れないうちになんでもメモっちゃうのは、多分プロアマ問わず作家の習性じゃないだろうか。


 寝る前に思い付いたアイデアをメモらずに寝てしまい、翌朝どうしても思い出せないとほんと損した気分になるからな。

 しかも年を取るごとにどんどんと思い出せなくなってくるのだ。


 あと最近は色々とデジタル化が進んで便利になったけど、やっぱりアイデア帳だけはアナログの方が後から手を加えたりイメージしたりがしやすいんだよな。


 あれこれ考えながら矢印一本引いたり消したりするのが、デジタルだとパッと感覚的にできないし。


 斜線で一旦消した言葉を後日やっぱり使うとか、一度消すと復活しないデジタルだとそういうのができないからさ。


 俺は今の気持ちやら出会いの状況などをアイデア帳に片っ端から書き留めると、今度こそ電気を消して眠りについた。


 何度も言うけど、ユキナのベッドに忍び込みなどという選択肢は存在しない。

 何をしても問題になる30代成人男性という存在がそんなことをしでかしたら、本気でシャレにならない未来しか待っていないから。


 俺は作家になることを真剣に目指しているのだから――

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