第14話「現代ラブコメが、ファンタジー……??」
「お上がりー。温もったか?」
パソコンに向かいながら顔だけ向けた俺のところに、
「うん、おかげさまでね」
ユキナはぺたぺたと素足で歩いてきた。
ユキナは俺が貸した新品のヒートテック長袖シャツとハーフパンツをダボっと着ている。
男物で全然サイズが合ってないってのに、ユキナが着るとまるでそういうファッションであるかのように可愛く見えてしまうから不思議だ。
さすが美人女子大生だな、俺とは存在レベルで違っている。
ちなみにユキナの服は洗濯中だ。
エアコンを除湿モードで入れているから夜の間に乾くはず。
「なら良かった。湯冷めするなよ」
「はーい。ねぇねぇドライヤー貸してよ? 髪を乾かしたいんだけど」
「悪い、ない」
「だよね。だと思った」
「ん? だと思ったってどう意味だよ?」
えらくはっきり断定したけど、理由でもあるんだろうか?
不思議に思った俺が尋ねると。
「もし普段から女の子が泊まってるなら、ドライヤーは絶対置いてあるはずだからね」
「……」
「でもこの家ってば女っ気ゼロだったから、逆説的にドライヤーもないんだろうなって思って。ほら、男の人はあまりドライヤー使わないんでしょ? カナタさん髪短いし」
ユキナはさらっとそんなことを言ってくる。
「……」
「黙ったってことは図星かな? かな?」
「まさかドライヤーがあるかないかだけで、そんなとこまで看破されてしまうとはな。ユキナって探偵にでもなりたいのか?」
「これくらい普通だよ? 女の子はいろんなところをチェックしてるんだから」
「マジか……」
女の子って可愛い顔してるのに怖いなぁ。
俺の創作の中の女の子は怖くならないようにしよう。
俺は、俺が理想とする夢と希望に満ち溢れた女の子を世に送り出すんだ――!
あと微妙にディスられてる気がしなくもなかったです。
いやいいんだけどね、事実だし。
「カナタさんもラブコメ書くなら、リアルな女の子についてもうちょっと勉強した方がいいかもねー」
笑いながら言ったユキナの言葉を、
「それなら心配はいらない」
しかし俺はきっぱりと否定した。
「え? なんでよ?」
俺の言葉に今度はユキナが不思議そうに首をかしげる。
「俺が書いてるのは、男子の夢と希望と妄想と現実逃避を形にする系のラブコメだからな。リアル要素はたいして要らないんだよ」
「なに……言ってるの……?」
「むしろ最近は現実感なんて全く感じさせない空想的な女の子や展開の方が、ユーザーからは求められているというか」
「う、うん……?」
「それにリアル系ラブコメなら、ライト文芸やキャラ文芸っていうジャンルがあるからさ。そういうのを読みたい人はそっちを読めばいい。要は住みわけだよ」
「分かるような、分からないような……」
「つまり俺の書いている現代ラブコメってジャンルは『ファンタジーラブコメ』であって、リアルの恋愛とはまったく別物なんだ」
「現代ラブコメが、ファンタジー……??」
「美少女たちはみんなすぐに冴えない主人公に惚れるし。ツンツンしてても実は主人公のことを憎からず思ってるし。今まで全く接点がなくても、たまたま犬を助けたことで惚れちゃったりするんだ」
「えっと……」
「だから恋愛経験ゼロの俺でも書けるし、むしろリアルな恋愛経験がなくてデートのイロハも知らない俺のような人間だからこそ、恥も外聞もなく『ある日突然モテモテな主人公』や『理想と願望を詰め込んだヒロイン』を描けるってわけだな」
「ものすっごい自虐なんだけど、ある意味これ以上なく説得力がある感じ……」
渾身のドヤ顔で言った俺に、ユキナが苦笑いのような愛想笑いを浮かべた。
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