第11話 0時30分、自室に女の子を連れ込むということ。
「あぁ、今日出会ったばかりの女の子を、本当に家に連れてきてしまった……」
俺は自室に招き入れたユキナを見てがっくりと肩を落とした。
ユキナはいうとそんな俺のことなんか気にも留めないで、興味深そうに室内をキョロキョロと見回している。
「あ、プラモデルだ。ガンダム?」
実家から持ってきた往年の名機ブレードライガーを指さして言ったユキナに、
「それはゾイド。ロボットプラモはなんでもガンダムだと思うなよ?」
俺はゾイドの認知度の低さに若干の悲しみを覚えながら答えた。
「だってそんな細かい違いとか分かんないし」
「ざっくり人型がガンダムで、恐竜や動物型がゾイドだ。な、簡単だろ?」
「人間も動物じゃん?」
「え? あ、うん、そうだな……うん、そうだ」
はい、秒で論破されました。
ほんと頭いいなぁ。
「あともう日付が変わってるから、昨日会ったばかりの女の子かな?」
「昨日でも今日でも30分しか違わないだろ? 出会って数時間だよ……はぁ」
見上げた部屋の掛け時計の針は0:30を指している。
「深夜に若い女の子を家に連れ込んでため息をつくなんて、カナタさん地味に酷くない?」
「やめろ、深夜に家に連れ込んだとか言うんじゃない。何度も言うが俺は警察のお世話にだけはなりたくないんだ。綺麗な身体のまま、誰にも後ろ指を指されることなくいつか作家デビューするんだから」
「ねぇ、シャワー借りていい?」
「……人の話はちゃんと聞こうな? 俺は真面目な話をしているんだぞ?」
「だってカナタさん無駄に心配性なんだもん。この話はいくらしても生産性がないよ。もしもの時はいいよって言ってるのに」
「俺がよくないんだよ」
「あっ! そういうこと……?」
「そういうことって、どういうことだよ?」
心当たりが無かった俺はおうむ返しに聞き返したんだけど、
「だからその……」
なぜかユキナはしろどもろどになっていて。
「なんだよ?」
「も、もしかしてその……つ、つ、付き合ってる人がいるとか?」
「いや、そういう人は――」
「そうだよね、30代なら彼女くらいいて当然だもんね。むしろ結婚も視野に入れてたりするよね」
「いやあのだから──」
「ライフプランを作って子供を作る時期とか住宅ローンの期間とかしっかり計算済みだよね。だから彼女がいるならこういうことされたら迷惑だよね、ごめんなさい」
ユキナが視線を伏せて、とても申し訳なさそうに謝罪した。
「やめてくれ、俺の心を言葉のナイフで無残にえぐってくるのはやめてくれ……」
ライフプラン?
住宅ローン?
なにそれ美味しいの?
「ってことは、今は彼女はいないの?」
「……いないな」
今どころか人生において彼女なる存在が俺の隣にいたことは、1秒たりともないんだけれど。
俺はマゾじゃないので、敢えて自分で自分を傷つけるようなことを言いはしなかった。
「気になる女の人もいないの?」
「いないよ」
「もしかしてゲイなの?」
「ちげーよ! 言っておくが日本男児の生涯未婚率は約25%。つまり4人に1人は一度も結婚せずに一生を終えるんだぞ? 4人に1人だぞ? つまり俺はそこまでマイノリティじゃないってことだ」
「うわぁ、そんな超どうでもいいことをイチイチ調べて記憶してるんだね。でもそうだよね、いろいろと思うところもあるよね。ごめんね、心を強く生きてね、応援してるから……」
ユキナが聖母のごとき優しい笑顔を向けてくる。
「だから若い女の子からそういう風にガチな感じで同情されると、よりいっそう心がえぐられるんだってば」
「そっかぁ、じゃあそういうことでシャワー借りるね」
「だからおまえは人の話を聞けよな!?」
最近の若い子のフリーダムさと図々しさ全くついていけず、俺は思わずため息をついた。
こんな感慨を覚えるだなんて、俺も年取ったなぁ。
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