第9話「だって終電ないから帰れないもん」「は……?」

 無事に今日の更新分を公開することができた俺は、時間も時間なので会計をしてファミレスを後にした。


 店の前でユキナとお別れのやりとりをする。


「ユキナ、今日はありがとな。月並みな表現だけど、いろいろと勉強になった」


 変な出会いから始まって1450円も奢らされて、そしてわずか数時間のことだったけど。

 だけど驚くほどに濃密で充実した数時間だった。

 作家としてステップアップできた気がするし、なによりユキナと話していてとても楽しかったのだ。


 合縁奇縁とはほんとよく言ったもんだよ。


「うーうん、ご飯奢ってもらったしね、お礼を言うのはこっちだよー。ごちそうさまでした」


「そうだよな、メシおごったんだもんな。お礼言われるのは俺の方か」

「だねっ」


「じゃあな、もう遅いからまっすぐ家に帰れよ? この辺は割と治安はいいけど、リスクってのは絶対ゼロにはならないからな。特にユキナみたいに若い女の子は、注意してもしすぎることはないだろうし」


 そして俺はさらっと別れを告げた。


 もし俺が対女子コミュニケーション能力に秀でたウェーイ!系の男だったなら。

 当たり前のようにラインを登録しあったり、メールアドレスや電話番号を巧みに聞きだしたりするのだろう。


 だがしかし!

 対女子コミュ力が限りなくゼロに等しいゴミ男子の俺にとっては、そんな芸当は逆立ちしたって不可能なのである!(キリッ


 それに年齢差が一回りもある若い女の子と一緒にいると言うことに対して、30代男性として恐怖感もあった。

 何度も言うけど、30代男性ってマジで些細なことで通報されるんだ。


 いやほんとなんで30代男性ってだけで、お昼に公園でお弁当を食べていただけなのに通報されて、パトカーが来て職質されてカバンの中まで見られないといけないんですかねぇ……。


 俺はユキナに背を向けると、自室のある賃貸アパートに向かって歩き出した。


「ユキナの家もこっちなのか?」

 そしてなぜか俺についてきたユキナを振りかえると、そう尋ねた。


「うーうん、まるっきり逆方向だよ?」


「じゃあなんでついてくるんだよ?」

「だって終電ないから帰れないもん」


「は……?」


「だってもう日付け変わってるじゃん? 電車ないし帰れないよ? 家はここから5駅向こうだし」


「え、マジで?」

「ほらあれ見て」


 ユキナが指さした先を見ると、今まさに終電と思しき電車が走り去っていくところだった。


「ええぇぇ……っ!?」

「ね?」


「ねって言われてもなぁ……どうするんだよ? そうだ、ユキナの親って車持ってたりする? すぐに電話して迎えに来てもらおう。夜遊びを怒られるかもだけど、そこはユキナの自業自得だからな?」


「持ってるけど、わたしの実家は関西だからちょっと無理だよ?」

「実家、ってことは今は一人暮らしってことか?」


「うん、うち大学進学で東京出てきてん」


「うっわ!? ネイティブの関西弁だ! すっげぇっ!? イントネーションがめちゃくちゃ自然だし! テレビで吉本を見てるみたいだ!」


「それって褒めてるの? あとなんかテンション変だよ? その異様なテンションの高さがマジ意味分かんないんだけど……」


 リアル関西弁に食い付きまくりの俺の反応に、ユキナが若干引いていた。


「もちろん褒めてるっての。だって関西人って標準語との二言語マスターなわけだろ? 小説に関西弁キャラ登場させる時に絶対得だもんな」


「なにそれ、褒め方が斜め上すぎて正直反応に困るんだけど……」


「おいおい分かってないなユキナ。関西人は連載が進むと登場する定番のキャラなんだよ」

「それってキャラ付けしやすいから?」


「お、よく分かってるじゃないか」

「まぁこれくらいならね。えへへ」


「でもな? エセ関西弁を使うと関西の人からものすごく叩かれるんだよ。俺なんか怖くて、とてもじゃないけど関西弁キャラは出せないもん」


 いわゆる関西弁警察K・K――KANSAIBEN・KEISATUだ。


 昨今のネットには至るところに「なんたら警察」が溢れかえっているが、関西弁警察K・Kはその中でも最大勢力と言っても過言ではない一大勢力だった。

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