第7話 ユキナのアドバイス
俺は文字を打ちこんでは消し、打ちこんでは消しを繰り返し、物語を進めていく。
今書いているのは30代のおっさんと女子高生の年の差ラブコメ。
アニメ化作品なども生まれている最近流行っている現代恋愛ジャンルの1つだ。
物語は中盤、主人公とヒロインがほんのささいな誤解からすれ違うシーンだった。
すれ違い展開は漫画とかの普通のラブコメでは定番中の定番だ。
だけどベタ惚れイチャラブが特に好まれるWeb小説においては、物語展開としてはやや不人気で、だからこの展開にするには少しだけ勇気がいった。
俺は時に世界の秩序を差配する神として。
時に主人公と一体となって。
時にすれ違ってしまったヒロインの気持ちに感情移入しながら。
黙々と物語を書き連ねていく。
………………
…………
……
…
「あ、ここちょっと地の文が長くて読みにくいかも? 切った方がいいんじゃない?」
「ほんとだ……集中してるとついつい文章が長くなっちゃうんだよな。さてどうしたもんか……」
「うーん、そうだねー。文の真ん中部分を主人公のセリフに変えて、全体を地の文→セリフ→地の文で3分割して短くしてみるとか?」
「なるほど……でもそれなら、こことここを入れ替えたらもっと分かりやすく……」
「うんうん、それすごくいいと思うよ」
――――――
「うーん、ここちょっと違和感あるかも?」
「どこ?」
「ここここ、合理性を気にしすぎて小さくまとまってるっていうか」
「あー、ここな」
「もっと主人公の感情を前面に押し出していいんじゃないかな? ここぞの場面で主人公に必要なのは、やっぱり合理性よりも熱意だと思うんだよね」
「だよな! うん、やっぱそうだよな! 今日ずっとここどうするかで悩んでたんだよ。おかげで踏ん切りがついた」
「逆に前半で合理性を補強してバランスをとっておけば、後半気合で乗り越えるところがさらに引き立つかも?」
「ふんふんほうほう、いいアイデアだな……今からはもう間に合わないんで、後日修正しよう」
――――――
「あ、ここタイプミスだよ」
「うげぇっ!? 『もちろん』が『もろちん』になってる!?」
「なっちゃってますな、ぽっ」
「主人公がヒロインに情熱的な言葉をかけるシーンで『もろちん』するとか、読者は失笑するしかないぞ!? マジ助かったよサンキュー」
「いえいえどういたしまして、こういうのって自分だと気づかないもんだしね」
「いやほんと助かったよ」
それにしてもさっきからすごく的確なアドバイスだな。
Web小説特有の読みやすさをベースにしながら、だけど新人賞とかの公募用の質の高さも兼ね備えた、いい文章が出来上がりつつあるよ。
自分で言うのもなんだけどな。
いやー、ほんと筆が進む進む。
まるで俺が書いた文章じゃないみたいだ――って、ん?
俺は今、誰と会話してたんだ?
「えっと、ユキナ……?」
「んー、なにー?」
気が付くとユキナが俺の左隣に密着するように座っていて、さらには首を伸ばして執筆中のノートパソコンの画面をのぞき込んでいた。
ユキナの右手は俺の太ももの上に置かれていて、それがとても気になるというか気になるというか、気になります。
「いつの間に隣に……」
「カナタさんすごく集中してたもんね、びっくりしたよ。隣座ってもいいって聞いても全然気づいてくれないんだもん」
「ああ俺、書いてる時は完全に自分の世界に入っちゃうタイプだから」
「みたいだねー。最初に声かけた時もなかなか返事してくれなかったし」
「それは悪かったな、ごめん。そんなことよりさ、さっきからアドバイスしてくれてたのってユキナなのか?」
「うん、そうだけど。えっと公開前の文章勝手に見ちゃってごめんなさい。余計なことしたよね……?」
ユキナは俺が怒ったとでも思ったのか、身体を小さくして上目遣いで謝罪の言葉を口にした。
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