第29話 晩餐の仕込み
俺、異世界に来てまで料理ばっかりしている印象があるが気のせい?
ポルテ会長にお断りをしようとコーネリアさんに相談したところ、「無駄ですから諦めてください」と俺の顔も見ずにティーセットを片付けながら言われた。ガチで今世では
「何作ったら喜ぶだろう。ポルテ会長の好みって何?魚系?肉系?」
この質問には流石に手を止めて、腕を組むコーネリアスさん。そんなに回答に悩むような質問じゃないよね?どういうこと?
「あの、ゲインさん、様。晩餐メニューすべてお作りになるつもりですか?」
「ん?・・・あっ、そうか!!ごめん、勘違いしてた。デザートだけで良」
「おい、ゲイン。晩餐すべて頼んだからな!!!楽しみしてるぞ」
ドガッ!!!と扉が一瞬だけ開き、声の主は言い逃げして閉めていった。
「・・・。」
「・・・。」
コーネリアスさんも俺も目を合わせているも声にならない。あの
「えっと・・・。どちらかと言うと魚?」
いらねぇよ、その回答!!!しかも語尾あげるなよ。雇用主の好みくらい把握しておけよ、長い付き合いだろうが!!!!
「ウィー、ムッシュ」
明らかに使い方を間違えているが俺は全く気にしないで答えた。
◇◇◇◇◇◇◇
-----(ポルテ商会厨房)
厨房に行くと当たり前だが、誰一人いい顔で迎えてくれる人なんていない。ポルテ会長の食事を預かることに誇りを持ち、今日のメニューも当日決めたような品物ではないだろう。仕入れをするための目利き、料理として出すタイミング等々がご主人のきまぐれでノラ魔族に奪われる。
それを簡単に許せる料理人など異世界にもいない。
「おい、若造!!貴様が会長に許されたからといって、厨房を荒らすことは許されんぞ」
料理長ではなく、副料理長らしき人物が俺にゲキオコである。ただ、料理長を筆頭に見習いまで全て同じ思いであることは明白だった。
いい職場だと思うし、会長幸せもんだなぁ。すげぇ上から目線で申し訳ないが、俺は周囲とは相反してニコニコしてしまう。そして、それが余計に相手の反感を買う。
「おい、てめぇ、副料理長の話聞いてるのか!!」
ゲキオコの料理人見習いの顔が目の前にある。唾飛ばしすぎだから。
「『クリーン』」
「ちょっ、おまっ!!」
自分と相手に『クリーン』を使う。やかましい料理人見習いをガン無視して料理人一同へきちんとお辞儀をする。
「突然、お邪魔した上に厨房までお借りすることになり申し訳ありません。私はゲインといいます。ポルテ会長には晩餐のシェフという大役はとてもできない、と辞退を申しあげようとコーネリアさんにも相談をしましたが「諦めろ」と残酷な通達がありました」
左後ろにいたコーネリアさんの呼吸がなぜか荒くなる。
「私の料理レベルではポルテ会長の貴重な1食を満たすことはできないと思います。ただ、それでも恩義には恩義で返したいのです。どうか本日の晩餐にご助力くださいますようお願いいたします」
自然ときちんとしたお辞儀ができた。アブリュート家で学んだ一般教養(礼儀作法)が役に立つ。
静まりかえった食堂に料理長の声が響いた。
「おまえら、
「・・・できません!!」
いつの間にかスタッフ達のところに戻ったゲキオコ見習いが大きな声で答える。
「エド、返事だけは良いな。姿勢を学べ、次からはヤレ」
「はいぃぃい!!」
もはや悲鳴にしか聞こえないエドの返事が厨房にこだまし、その後、認められたのか周りから拍手をいただく。
「んで、ゲインさん。俺たちは何を手伝えばいい?」
「ありがとうございます。それでは今日の晩餐のメニューを教えてください」
料理長から今日のメニューを聞く。
前菜:野菜とアイン・バード(鴨肉っぽい)のソテー
スープ:コンソメっぽい何か(聞いたが分からん)
メイン:白身魚のクリーム仕立て
メイン2:ボアの薄切りステーキ
デザート:コーヒー、クッキー
後はパンをお好みで食すとのこと。スタンダード・フレンチと組み立てが違うのは異世界なので当たり前として、ポルテ会長の年齢を考えると重すぎないだろうか。
「ポルテ会長は普段から完食なされます?」
「う〜ん、ここのところ少し残される傾向にはあるな」
「そうでしたか。すべてソースを味見しましたが、どれも美味しいことに間違いありません」
ただ、ちょっとだけ重いと思う。軽めにアレンジするのと、せっかくの白身魚だし久しぶりにアクアパッツァ作りたいな。
「それでは料理をさせていただきます。サポート宜しくお願いします」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんとか晩餐に間に合いましたね。あとは給仕です。よろしくお願いします」
「「「はい、ゲイン様!!」」」
何名からは料理を進めていく段階で”様”付けで呼ばれるようになっていた。始めは戸惑ったが指揮系統を考えるとその方が良い、ごめんなさい、ほんとうは時間が無くて全く気にしてる余裕がありませんでした。さーせん。
「見事としか言いようがありません」
コーネリアさんが呆れたように俺を見ている。
「味は僕は好きですが、ポルテ会長が好むのかは保証できませんよ」
やりきった達成感が身を包む。こんなに集中して料理を作るなんて両親の結婚記念日以来だ。
ゲインの晩餐
前菜:軽めの野菜天ぷら盛り合わせ
スープ:オニオンスープ
メイン:白身魚とアサリのアクアパッツァ
メイン2:ベモント・バードとアイン・バードのつくね串(甘辛タレ仕立て)
デザート:コーヒーゼリー、コーヒーアイス、プリン、紅茶クッキー
もう様式を一切無視して用意されていた材料から考えた料理を指示した。ここの料理人がいかに優秀かはすぐにわかり、まったく料理したことのない作法でも疑いもせず、アレンジもせずに調理してくれた。途中、味の確認に呼ばれたり、アイスクリームが固まりだしたときに悲鳴があがったくらいだ。
「さて、先に伝えますが、すべての料理に『クリーン』をかけました。これはコーネリアさんにも確認をしていただいてます。もちろん、毒味をしていただいても構いません。あと、本日はゲストを含めて3名?と伺っていましたが、5名分用意しております。少ないとは思いますが、2名分はホールスタッフで良かったら食べてください」
「「「「「ウォォオオオオ!!!」」」」」
少しの静寂から打って変わって地鳴りと思うほど厨房がわく。いやっ、こんなに騒つくことじゃないでしょ?料理長と副料理長が握手しているのが見える。なんか良い子弟関係なんだろうなぁ。
「おぉ、やっぱりゲインが原因か?」
にやにやしながら厨房にやって来た主ポルテ会長を見るまで騒ぎは収まらなかった。
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