第30話 晩餐と未遂

 「おぉ、これは見たことのない料理だな!!ゲイン、説明を頼む」

 「こちらは野菜を油であげた料理になります」


 なぜか俺もテーブルの席についている。まだ、今日の宿すらとってないんだけど・・・。


 「で、なぜこいつが晩餐を作ってるんだ」

 「そりゃ、そうですよねぇ」


 目の前の席に冒険者ギルドのギルマスが座っている。


 「ゲインの料理は美味いんだよ。それ以外に何がある?」


 ポルテ会長がドヤ顔するタイミングじゃないと思うのだが、それを見たギルマスは何かを悟った顔をする。俺もどちらかというとギルマス派であろう。


 「熱いうちに食べてください。お好みで塩を少し振るといいかもしれません」

 「うまっ!!!」

 「うめぇ!!!」


 どこのお子さまだよ、この偉そうなテーブルについてるのに・・・。




 ポルテ会長とギルマスは既知で、結構な付き合いになるそうだ。冒険者ギルドのマスターとアイルランダーの有名商会長ともなれば当たり前か。ただ、その晩餐に俺が同席する意味が分からん。


 「ポルテ会長、なぜ私を席につかせたんです?」

 「あれ?セルド、用件って言ってなかったか?」

 「おまえ、『うまっ!!』しか言ってなかったぞ。あと、アレだ『ゲイン、説明してくれ』」


 ガハハハハと自分の言葉に酔いしれるギルマス。絶対ワイン進みすぎだろ。


 「ポルテ会長」


 面倒なギルマスを無視して話を進めるよう会長に促す。ゆっくりとナプキンでポルテ会長が口を拭った。晩餐もデザートの時間を迎え、コーネリアさんが給仕を始める。コーネリアさん、俺に対する変装だったんじゃなくて、ガチメイドなの?


 「少し前になるが3人組の冒険者パーティーが魔物に襲われたようなんだ。我々が通っていた街道でね。しかも、そこそこ強い3人組だったが、彼らの言葉をそのまま使うとフルボッコだったらしい」



 まだ続きそうな話なのに間を置いて俺を見つめるポルテ会長。ギルマスのセルドが俺を見つめて静かに問う。


 「心当たりはあるか?」

 「本人です」


 セルドの差し出した助け舟にきっぱりと答える。


 「いや、ちょっとだけ言い訳聞いてくれます?」

 「だはははは、やっぱりゲインかよ。なら問題は解決だな」

 「へっ?」

 「あぁ、街道のパトロールは減らして良いな。商会連中にも伝えておこう」


 どうもことで街道の利用者が減少していたそうだ。そりゃぁ、正体不明で神出鬼没なら利用も減るよな。特に商会なら搬送中の物損となると被害はバカにならない。


 「あの、理由は聞かないのですか?」

 「どうせゲインに一方的にケンカ売って返り討ち、だろ?」


 ワイン片手にしたセルドが杯を掲げて言う。


 「バカな冒険者に乾杯!!!」

 「いや、それギルマスが言ったらダメなヤツだから!!!」


 冒険者ギルド大丈夫かと心配になる発言だが、よくよく考えたらセルドのお陰でDランク冒険者から始められるのだから強くも言えない。強いものには安易に巻かれるタイプだ。


 「うまっ!!!」

 「おまえ、またそれかよ・・・。ってうめぇ!!!」


 デザートでも同じ言葉を発する二人。もうこの展開飽きたんだが賑やかな晩餐で俺は少し高揚していた。家族でご飯を食べていた頃を思い出すほど、ポルテ会長もセルドも俺(魔族)を差別的な扱いをしなかった。それが街につくまでに凝り固まっていた心をゆっくりと広く温めてくれた。




◇◇◇◇◇◇◇



 「晩餐、おつかれさまでした。こちらでどうぞご寛ぎください」


 コーネリアさんに案内された客室に入る。室内はアブリュートの館よりも豪華な作りになっており、窓枠にはきちんとカーテンがある。ランプもすでにいくつか灯されており、部屋は暖色系の家具が多く揃っている。


 「すごく素敵な家具ですね。カーテンも初めて見ました」

 「そうですか。お気に召したようで何よりです」


 コーネリアさんが晩餐の後から敬語を使うようになっている。俺、なんかやらかしたっけ?


 「コーネリアさん、なぜ敬語になってるんですか?」

 「ゲイン様、最初から敬語だったではありましぇんか」

 「いや、”さん”付けだったし、噛んでるし」

 「キィイイ!!お願いだ。あのプリン食わせろ」


 最初より横柄な口調なんだが・・・。


 「いいよ。今度作るね」

 「大人の今度など信用できるか!!!」

 「いや、知らんし。材料無いし、厨房もないし。仕方ないじゃん」


 その後、プリンの偉大さをコーネリアさんが切々と説いていたが、そもそも俺が作ったものなので何も心に刺さらない。滑らかなプリンのように会話を流していると、憤慨したコーネリアさんがドアを強く閉めて出て行った。



 「メイドにあるまじき行為ですね」

 「ほんとそ・・・ひぃいいいい!!アンさん!?」


 ドアから視線をベッドの方に移すと、いつもの給仕服を着たアンさんが佇んでいた。全く違和感を感じさせずに室内どころか、会話にまで入って来た。


 「アンさん、ほんとーーーーーにやめて。びっくりして死ぬ」

 「ゴブリン・キングに生まれ変ったのに?ですか」


 アンさんがいつもの微笑みではなく、ゆっくりと口角の片方だけを上げて笑みを作る。怖いから!!ほんっっっと怖いから!!!アブリュート家のメイド!!!


 「カーテンを着けていないのは主の意思です」

 「浮かれてないから!!ほんとどこからいたの!?」

 「最初からおりましたが、若いメイドに浮気されるとは私も終わりですね・・・」


 もうダメだ。何言っても辛い状況にしかならん。


 「ほら、こっちおいで」


 アンさんを無視して俺はベッドに横になり、毛布をあげてこちらに呼ぶ。


 「ふふふ、それで引くとでも?残念ですが本気で童貞いただきますから!!!!」

 「いやぁーーーーーーーーーー!!」



◇◇◇◇◇◇◇



 「昨晩は激しかったですね」

 「してねぇ〜から!!!」

 「キスはしましたね。よく踏みとどまりましたね」

 「・・・」


 アンさんがニヤニヤしている。ジグさんの修行よりも本気出して頑張った俺を自分で褒めてあげたい。精神的にもガチでキツイかった。


 「さて、本題を。ナスカお嬢様からお手紙を預かっております」

 「このタイミングでかよ」


 立派な手紙は封がなされており、横に小さく”ナスカ”とサインがされていた。懐かしい字体につい顔が緩む。


 「あっ、浮気ものですね。ナスカお嬢様ならば仕方がありませんが、下賤なメイドにはぜったいに許しません」

 「浮気もなにも」

 「遊びだったの!!」

 「もう帰れよ!!!!」


 本気で言ったわけではないが、文字通り一瞬でアンさんはいなくなった。俺、幻術を掛けられていたわけじゃないよな?


 「そうそう、キスしたことはナスカお嬢様に伝えますから」


 天井当たりからキッパリとした声が聞こえた。多分、こちらの声も届くだろう。



 「次、お菓子つくってもアンさんにはあげないから」



 少し間があり、天井から謝罪の言葉と土下座でもしているのか、何かを打ち付ける音が何度も聞こえた。

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