第25話 ゴブリン、北上なう

 俺もアイルランダーへ向けて歩く。途中、腹が減ったが商人の荷馬車をヒャッハーと襲うことなく、街道近くの林にいるボア系の魔物を倒して糧とする。睡眠も街道沿いでするが、誰ともすれ違わない。



 「これ、絶対不自然だよな」


 最近馬車が通った痕跡が残されているのに俺の前後に馬車の姿すら見えない。やっぱり街に入るの無理じゃね?ボッチ&ヒッキーの方が精神の平穏を保てるのだろうか?



 「行ってダメなら考えな〜」



 修行中、よくナスカが言っていた。結構な行き当たりバッタリのくせに、妙に勘が良く目的地に着いたりする。森の西奥に温泉の滝を見つけたときには流石に驚いた。俺が温泉に身も心も溶けているとナスカまで入ってきて慌てたのを思い出す。あいつの倫理観はほんっとによく分からん。




 街道利用者が休憩所として使われている広場から少し離れて俺は腰を下ろした。陽も暮れ始めたため、野営するにもちょうど良いだろう。


 「確固たる土壁アース・ウォール


 ちょっとした1DKサイズの屋根付きの家を作る。これなら残しておいても、勝手に行商人などに活用されるだろ。少しくらい人族に役立つことを示さないと。



◇◇◇◇◇◇◇


 食事も終えて簡易ベッド(土製)に横たわっているとお客さんが来た。


 「おい!!行くときに家なんてなかったよな?」

 「アイルランダーの家と作りが異なる。これ魔法でできてるんじゃない?」

 「これがか?」


 男女の二人組がこちらにゆっくり近づいてきており、寝ぼけ半分の身体を起こす。魔物じゃなくて人がいちばん怖いのはこの世界でも一緒かもしれない。


 「うわぁ〜、見事な家だね」

 「なんか玄関とかしっかりしてるぞ、誰作ったんだ?」

 「冒険者ギルドくらいしか思いつかんが何ら周知されていなかった。そう考えると個人しかありえん」


 どこぞの老人風の男性も加わったようだ。周囲に索敵を張ると12人と数頭の馬らしき反応がある。きっと商人と護衛を受けた冒険者なのだろう。家の外から魔法をぶっ放されても死にはしないが、気分は良くないので顔を出すことにする。



 「ども、こんばんは〜」


 めちゃくちゃ友好的に笑顔を称えて精一杯歩みよる。



 「「うわぁあっわっわああ!!!」」


 一番近かった男女は腰を抜かしたのか、そのまま手足をうまくつかい全力でバックしていく。バスケ部が体育館でやっていた練習を思い出し、俺は少し吹いてしまう。老人はそんな俺の目をじっと見つめて様子を伺っているようだ。


 「我々は商隊の護衛をしてるもんだ。5名いる。騒がしくして申し訳ないが、こちらも休息を取らせてもらいたいが良いか?」


 「もちろんですよ、皆の休憩所ですしお互いに近い方が助け合えます」


 「ふむ、ちと確認だが、この建物は?」


 老人の圧が心なし増した気がする。少なくとも俺はなにも仕掛けてはいない。俺の知る常識の範囲(魔族の一般教養)ではあるが。



 「これ?俺が建てた。必要ならそちらの休憩所もいるか?」

 「ん?お主が建てたのか?いつからだ?」

 「えっ?ちょい前、ってか今日だけど」



 ・・・



 誰もなにも発せず、冒険者たちがゆっくりと一定範囲で俺を囲い始める。俺のソワソワが止まらない。老人もなんか言えよ!!



 「あの、ちょっと見せますので警戒するなよ」


 微妙に敬語とタメ口が混ざり合うくらい動揺する。


 「土魔法使うからな、あっちに土壁できるからみててくれよ」


 用心のために身体強化すると戦闘に突入する気しかしないので、ゆっくりと動いて魔法を行使する。


 「確固たる土壁アース・ウォール


 頭にしっかりと浮かぶ3LDK(休憩所版)を立上げる。屋根も斜め屋根にして、雨風にもある程度なら耐えられる仕様にする。ドアは申し訳ないが街道沿いのため、無しにして置いた方がセキュリティは上だろう。夜襲が来ても出れるし、声も通る。



 「ね?出来るだろ」


 「へっ・・・」


 振返り老人の方へ語り帰ると唖然としたまま返事を返された。老人はローブを羽織っており魔法使いだろう。土魔法がある程度で使えれば、可能だと思っていたが違うのか?


 そして、俺を警戒していたはずの冒険者たちは唖然としたまま固まってる。商隊を放っておいて大丈夫なのか?



 「ご老人、『確固たる土壁アース・ウォール』・・・というか魔法で家を建ててはダメとか法律ある?」


 「いや、そんな規制は無い。そもそも一般的に魔力が保たないのと、時間が一定以上経過した場合、土壁は分解されるもんなんだがな・・・。お主の家は建ててからどのくらい経つ?」



 身震いをしたあと、立ちなおった老人と魔族の森(人族での呼び名)での生活など話して無事に打ち解けることができた。



 「ほんっっといきなり襲われると思ったからね」


 俺がそう言うと、すぐに隣に座る戦士の男が反応する。


 「いや、こっちこそ『全滅する前に商隊だけ逃すか?』ってサインが出てたくらいだ」


 ・・・どうやら事態は俺が思ったよりも深刻だったことを知る。全滅とか物騒なことを考えるほど、俺が危険物認定を受ける可能性がある。



 「それで俺、街にいって鍛冶とか習いたいだよ」

 「えぇ〜、そんだけ魔法できるなら鍛冶しなくてよくね?」


 どうも老人セバストの話だと、『確固たる土壁アース・ウォール』で家を建てるなど前代未聞らしい。俺のよく読んでいたファンタジー小説ならあるあるなんだが・・・。そして、定番のごとく魔法操作がそれほど皆高くないらしい。魔法操作はすべての基礎だと俺は思う。


 「鍛冶の方がレベルが高いし、俺は鍛冶が好きなんだよ」

 「家事もできて魔法もできるなんて良い男ね」


 うっとりした顔で俺を見るアリス(女剣士)。家事違いはもう要らないから。そういうの足りてますから。


 「鍛冶違いも甚だしい」


 俺がつい口から漏らしてしまった言葉にセバストが反応する。


 「お主、駄洒落とか見た目よりおっさんか!?」



 マジで全滅させようかと一瞬頭をよぎると、殺気が漏れたのか皆が息を呑み場が凍りつく。



 「ガチですまん。俺はもう寝るからね。おやすみなさ〜い」



 いっきに言い放ち、俺は自分の仮住居(1DK)に走って戻る。俺がいなくなってから皆が一斉にため息を吐いているのが分かった。


 「俺、このままじゃ人族に友達はできないかもなぁ。あの程度でビビるならナスカなんて殺気の固まりだろぉ〜」



■■■■■



 本人は気がついていないが、ゴブリン・キング(亜種)に進化してからの殺気は別次元になっている。


 ゲインはアイルランダーなら魔族でも街に入れることを知った。これはアイルランダーの南西に広がる『魔族の森』から貴重な素材が運び込まれることが多いためで、当然、魔族が持ち込むことが多いのが要因だ。出入りに厳重なチェックを受けなければならないが、それでも戦闘にならずに入れるのは朗報だった。



 あと2日程度で街には着ける。この世界の文化レベルを知る楽しみと、鍛冶が出来る期待にゲインは落ち着かない夜を過ごした。


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