第26話 ゴブリン、商隊とともに

 「すまんが我々と一緒にアイルランダーまで来てくれないか_?」


 朝起きていつもの体操を終え、朝食の準備をしているとセバストが話しかけてきた。向こうも今は朝食の準備をしているのが遠くに見えた。アリスが心配そうにこちらをみている。


 「別に良いけど、怖くないのか?」

 「いや、すまん。昨晩は怖かったが好奇心が勝った。あと、商隊の・・・というか、雇い主がお主の家を気に入ってしまってな。できれば一緒に街にいくまで建ててほしい」


 つまりは俺は怖いが雇い主のわがままに付き合わなければいけなくなった、ということか。歯切れは悪くないが、どこか情けない表情をセバストは浮かべている。


 「報酬は金貨1枚で、野営地の仮拠点の生成と商隊の護衛だ」

 「俺が入ってもいいんですか?」

 「こっちが頼んでいる側だからな。あと2日だが、割と良い依頼だと思うぞ?」

 「受けます!!」



 財布にある金貨が2枚で他は銀貨以下である。全財産の1/3が一気に手に入るなら喜んで受けよう。しかも、残り2泊しかないのだから楽チンでもある。


 「わかった。それでは雇い主には話をつけておく。先に金貨を渡しておく」


 そういって俺に金貨を手渡し、老人のくせにニカっと爽やかに笑って去っていった。なんか騙されている気がするくらい胡散臭い爺さんである。大体、白髪(または銀髪)の方は信用してはいけないというルール(ジグのせい)が俺にはある。



 前払いで金貨1枚をサッと支払うほど、今回の積荷は高価な品物が多いのだろう。盗賊討伐というテンプレ的な展開があれば、ヒャッハー狩りを喜んで引き受けよう。



◇◇◇◇◇◇◇



 荷馬車の幌の上に座ることが許可され、俺は周囲に索敵をしながらセバスト(リーダー)に報告をする。内容はゴブリンが北西方向100mに12体いるとか、ワーモック・ボア(猪)が東の林に潜んでいるとかで、実際の戦闘は護衛の冒険者パーティーで対処している。


 冒険者パーティー”白鷲の尻尾”のリーダーがセバストだった事にも驚いたが、朝食の準備中に話しかけてきた理由も判明する。見かけ通りというか、一番、人物像が不明なのだ。高齢=経験豊か=生存率が高い、って冒険者じゃなくとも納得できる要素だ。こっちの世界では命は軽く散る。



 「それじゃぁ、今日はここに仮拠点を生成してくれ」

 「了解した」


 指示された場所へ俺が魔法を使おうとしたところ、セバストが遮るように目の前に立つ。


 「ゲイン、ちなみにどのくらい広げられる?」

 「1階だてで良いのか?」

 「あぁ、夜襲に備えるためにも1階で十分だ」


 う〜ん、できると言えば地下3階建、地上2階建てくらいなら余裕である。広さも体育館くらいまでなら余裕で、その半分くらいまでにしておいた方が良さそうな雰囲気である。なんとなくガチで建てたらダメだと俺の危険探知が発動している。


 「昨日の間取りを簡素化するともっと広げられる・・・かな?」

 「ほほぉ・・・。それでは昨日より広げてもらって、簡易的な厩も設置できるか?」

 「それくらいなら楽じゃないかな。『確固たる土壁アース・ウォール』」


 間取りも雑魚寝をメインにし、調理場は外で使うことを前提に広げていく。ドアも付けず、窓も凝った作りにはしない省エネモードである。カーポートを複数並べて、間に仕切りを付けるみたいになった。


 「これくらいが限界かな?」


 目の前の出来にセバストは驚いている。少し離れたところで商隊が沸いた。いきなり建物が出来上がればびっくりするのはこの世界でも常識のようだ。よかった、着いてから空き地に建てないで・・・。魔法使えばかなり簡単にできるんだけどなぁ。魔法建築屋でも始めたら儲かるかもしれない。



 「おまえさん、少し自重を知った方が今後のためにも良いぞ」


 セバストが同情を含んだ目で俺を見る。これでも自重したのにまだ足りないのかよ。隠密で街まで行って様子を見てから入った方が良かったのかもしれない。ここまで騒がれるとは思いもしなかった。


 「まぁ、でも土魔法が優れている魔術師には敵わないよ」

 「・・・それを本気で言っているのが怖いわ」


 静かに侮辱されたような言葉を俺に言い残しセバストは仲間のところへ戻っていく。俺は作った拠点もどきより離れて簡易台所を生成する。煙突効果を狙えば火力も増すし、料理もしやすくなる。


 「近くに魔物でもいれば良いんだがなぁ・・・。おっ!!ベモント・バードだ」



 気配察知で鳥の魔物を見つけ、隠密で近寄る。鳥系を狩るなら光魔法か水魔法が良いのだが、また周囲からあれこれ言われるのは嫌だ。射程距離まで焦らず静かに近づき、躊躇せずに魔鋼・ダガーを投擲する。これまでの修行のたまもので、かなり遠くまで正確に当てることができるようになった自慢のスキルである。



 刺さったダガーを抜き、そのまま吊って血抜きを済ませる。『クリーン』をかけた後、素材として使える左右2本の羽を抜き、あとは生活魔法の『ファイア』で毛を燃やす。ふと、アントの左前脚が脱毛されて大笑いしたことを思い出す。いきさつを問い詰めても「厩舎の王として君臨した名誉の負傷だ」と答えるだけだった。



 どうみたって厩舎のお姉さんのお仕置きなのに。



 妙に意固地でユーモアで食いしん坊な従馬を思い出す。そろそろ父親になったのではないだろうか?子も従馬になるのか?とか疑問はつきないが、次会ったときには分かるだろう。



 考え事をしながらも手は休めず、それから2羽狩りを済ませる。2羽は血抜き後、氷魔法を付けておけば道中の食事の材料に事欠かない。少しだけ荷物になるが、氷魔法の周囲を土魔法でサッカーボールのように固めておく。



 今日のご飯は手早くベモント・バードで出汁を取り、もう1つの窯で焼き鳥を作る。備え付けの野菜は魔族の森で採れたものを使い、ついでに焼きと出汁にそれぞれ使う。早めに使いきらないと野菜が腐りかけてきていた。これだけは不思議だが氷魔法でも保存が効かない変な野菜だった。



 「うしっ!!それではいただきます」


 鳥の煮汁、鳥と野菜の串焼きの完成である。作っている最中、セバスト達が俺を囲い、食べたそうにしていたが一切やらなかった!!


 アリスさんが腕に胸を押しつけ「ゲインさん、私に1本串をくれるとあるかもよ?」とあざとさ100%で来た時だけグラついた。軽装鎧越しでも分かる豊穣の包みよ。それだけで1本あげそうになったのは男子たる者、仕方がないことではないでしょうか?

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