第24話 ぼっちゴブリン、森を出る

 「良し!!今日から俺は森を出る!!」


 ・・・


 知ってる、だれも反応しないことくらい。だってボッチだもの。ただ、自分で勢い付けないと、このまま森の狩人として生活で終わってしまう。なんといっても家は1戸建て(地下3階付き)、とても綺麗な月を浮かべる湖が近くにあり、果物も肉にも苦労しない。魚はちょっと・・・だが。



 なによりも誰も俺の腕をもぎ取ったり、足を逆の方向に向けるような日々がこない。


 もう完成形である。


 俺の前世の夢の完成形、ここに在り。あっ、狩人としてライフルを撃つことはできないが、そこは魔法でカバーできる。今度鍛冶で銃を作って、魔石か魔力を動力源として属性魔法を撃てたらかっこいいかもしれん。洒落たグリップであること、銃身もピカピカのミスリルとかにして作ってみたい。



 「最初ゴブリン転生とか絶対詰むと思ったんだけどなぁ」



 地下3階の家を水魔法と土魔法で泥沼化し、周りをきちんとコーティングして地下に沈めておく。これで戻ってきたときも大体は使えるだろう。作り直しはいつでも出来るのだが、初めての一人暮らしの家である。思い出まで軽く扱うようになったら魔物と俺に違いは無くなる気がする。


 誇り高い魔族であろう!!っていうかヴァンパイアに俺はなりたい。

 ゴブリン・ロード誰かが設定した王道など絶対に進まん!!!



◇◇◇◇◇◇◇



 これまでの森の散策で街道は見かけていたので迷わずに進む。この街道を進めば人族の国、グーム公国のアイルランダーへと辿り着くはずだ。距離からして全力で走って1日、のんびり歩いて5日程度だろう。見た目は人族っぽいが、一応上位種のゴブリン・キングである俺が街に入れるのだろうか。そこで入れなかった場合、他の方法を考えなければならない。



 森から街道に出て、そのままアイルランダーへ進むも前後に馬車は見当たらず、魔物も全然出て来ない。グーム公国の治安の良さに驚かされる。あとは出てくるとしたら盗賊くらいか・・・と考えていると、遠くからこちらに走ってくる3名が見える。



 「おい!!てめぇ、ゴブリンだろ?何で堂々と歩いてんだよ!!」

 「黙って狩られるのがおまえらの存在意義だ」

 「『火球よ、飛べファイヤー・ボール』」


 男達はすぐに戦闘に入る。灰色のローブを頭にかぶった男は、躊躇なく大きい火の玉をこちらに放ってきた。


 「おい、ちょっと待て!!戦闘する気はない」


 ファイヤー・ボールを躱し、片手剣の男の剣を流し受けながら振り返り、後ろに回った軽装鎧の男に言う。


 「うぉおお!!こいつ喋りやがった」

 「ダンドリーの魔法は躱すし、俺の剣までいなしやがった。普通のゴブリンじゃねぇぞ」

 「『鑑定』」


 名前:ダンドリー   

 性別:雄

 種族:人族

 職業:冒険者

 適性:火魔法、水魔法

 スキル:火魔法Lv2、水魔法Lv1


 名前:アグライ   

 性別:雄

 種族:人族

 職業:冒険者

 適性:片手剣、盾、身体技術

 スキル:片手剣Lv1、盾Lv1、体術Lv1



 名前:ノードア   

 性別:雄

 種族:人族

 職業:冒険者

 適性:風魔法、弓技術、隠密技術

 スキル:風魔法Lv1、隠密Lv1



 「うわっ、こいつ魔法使うぞ!!」

 「何使ったんだ、一瞬だけゾクっとしたが」

 「わからん。呪いかもしれない、いったん街まで逃げよう」


 ・・・すげぇな、こいつら。いきなり戦闘ふっかけてきて、『鑑定』受けたら逃げるとか。こっちの人族って礼儀作法しらないどころか、このままだと魔族と一緒に生活した方が俺の知る人間っぽい気がするんだが・・・。



 ただ、情報収集は必要なわけで。


 「おい、おまえら待てよ」

 「ゴブリンの癖に呼び止めてんじゃねぇよ」


 好きでゴブリンやってねぇんだよ!!!


 「まぁ、気持ちは分からんでもない。だが、断る」


 速攻で身体強化を使い、すぐに3人の先へと回り込む。


 「しかし、まわりこまれた」


 街道に砂埃のエフェクトつきでザザーと効果音まで付け、俺はドヤ顔をする。


 「こ、こ、こいつ、もしかして」

 「おい、このゴブリン!!

 「「「誰だ!!!?」」」


 某ゲームで有名な『逃げる→失敗』をリアルで表現したが反応は薄い。偉大なドラゴンと勇者の物語へあとで祈りをささげよう。そんなことを考えていると、『鑑定』を使ってきた奴がいる。


 「あのなぁ、『鑑定』を格上にするなんて死にたいのか?」

 「ゴブリンのくせに偉そうに言うな!!!」

 「てめぇなんて、クソ雑魚だろうが?舐めてんじゃねぇぞ」


 斥候と戦士が俺を指差して罵っている。

 うん、どうも魔物なので短気になったんだな。


 ゴブン!!


 戦士を軽く殴って5mくらい吹き飛ばす。横で一緒に笑っていた斥候が笑顔のままフューフューと息をもらしている。


 「なぁ、おまえら。俺に情報をくれ。嫌なら断っていいが助走なしで空飛ぶぞ」


 静かに伝えると、斥候と魔法使いは縦に頭を振る。威圧を使ったわけではないが素直に言うことを聞く気になったので手っ取り早い。この単純思考は俺の魔物化が進んでいるのだろうか?




 3人は最初は小さい村で過ごしていたが、冒険者として自力もついてきたのでアイルランダーでギルドに登録したとのこと。討伐依頼や薬草採取など地道に取り組み、生活の糧を得ているとのこと。



 いまのところ情報は3人から聞くだけで、自分についてはひと言も話していない。『鑑定』魔法も『妨害』で常時防いでいるので、俺よりも強いヤツの魔法じゃなければ看破はできない。



 「なぜ、魔物だと思った?」

 「えっ!!?」


 俺の質問が明らかにおかしかったのか、これまで滑らかに情報を説明していたノードア(斥候)が固まる。


 「遠慮せずに言ってくれ。このことで殴りはしない」

 「うっ・・・はぁ、魔力が・・・魔力が駄々漏れで魔物だと思いました」



 二人が言うには、魔物は魔力と殺気がダダ漏れしており、冒険者である程度経験をつむと探索に引っかかるそうだ。そんなにダダ漏れだったのか・・・っていうか、だから誰も襲って来ないのか?


 「・・・フー・・・。これでどう?」

 「あっ、気配が消えてる」

 「すげぇ!!俺よりも気配消すのうめぇ」


 斥候のユウダイは気配察知が優れているため、余計に目の前で気配を感じさせない俺に大げさに驚いている。


 「おまえらに森に入るなよ。俺よりも強い魔物はごっそりいるし、気配を消してるからな」

 「ぜ、絶対に行かない!!!」

 「おう」



 顎が割れたのか、吹っ飛んだ先で動かないアグライに近づく。涙と血でグチャグチャな表情のうえ、恐怖で震え上がっている。


 「次、アホみたいなこと言ったら死ぬぞ」

 「うぇえい」


 『うぇえい』ってなんだよ!!!思わず吹きそうになったが、相手からしてみたら本気で返事をしているわけで、ここで笑ったら俺の悪党レベルが跳ね上がる。


 「『ヒール』」


 柔らかい光でアグライの体全体を包み込む。割とダメージが出かかったみたいで、同じくらいの人族相手のときはもっと手加減を覚えないとダメだな。




 「あのさ、俺に服買ってきてくれ」


 治ったアグライの横に片膝をつき、耳元でやさしく呟く。お金は自分の財布から渡し、先にアイルランダーに戻って買い物をお願いすると、喜んでノードアとダンドリーを連れて走って行った。




 ・・・アホだっ!!あいつらから迷惑料として服を貰えばよかったんだ。



 ゆっくりと街道を歩きながら物騒なことを考えていた。


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