第23話 種族進化 その2

 少しずつ感覚が体に馴染んでいく。いきなり別の体に生まれ変わるなど出来るわけがなく、それ相応の対価(痛み)が発生することがわかった。



 ガチで当主様の館でやらなくて良かった。


 もしやっていたら体の異変は間違いなく気付かれるし、叫び声も上げていたのだから異常事態でしかない。なによりアンさんが常に監視のように支援をしてくれていたので、仮に実行した場合、「何をしました?」と質問責めにあっていただろう、もちろん、痛みで俺が絶叫している最中に。


 「5本指万歳!!!そして視点がめちゃ高くなってる!!」


 魔鉱・タガーも4本指と5本指どちらでも使えるように作っておいて良かった。起き上がると今までの視界より高くなっている。身長も180cm近くまでなってるんじゃないだろうか?



 四肢を確認するも、想像通りというかダガッツと同じく人族と同じような作りだ。身長はダガッツよりも高い。



 「しかも急に大人みたいになったな。っていうか、ナスカ達は次会っても俺だと分からないだろうなぁ」



 少しずつ冷静さを取り戻した俺は、急速に空腹を感じ、地下3階に貯蔵した食料をすべてたらいあげる。進化直後の副作用なのか、空腹と喉の渇きは耐え難きレベルだ。


 「服・・・服がねぇ!!」


 さっきまで来ていた衣類は、すべて千切れ飛んでおり、残った部分も血塗られて酷い状況である。せっかくの頂いた文化的な服だったのに・・・。



 「結局、腰蓑からまた始まるわけで・・・」



 むごたらしい衣類(お久しぶりです)に肩を落とすも、近いうちにどこかの集落へ行けば何とかなるだろう。お金もあることだし、貨幣さえ問題なく使わせてくれたら大丈夫だ。最大の問題は集落で襲われないことなのは言うまでもない。




 あと、まったく関係ないと前置きしておくが、俺、大人になってた。



◇◇◇◇◇◇◇



 そして、いつも通り鏡の代わりに湖へ向かう。外に出てわかったのだが、気を失っていた時間はかなり長かったようで、太陽の位置は朝方を示していた。



 「やっぱり気絶していたんだな。確実に時間感覚がおかしい」



 ありえないほど時間が経過しており、自分の痛覚耐性がほとんど機能していないことを知る。模擬戦という名の命の駆け引きでも足りないものは足りないようである。



 「おぉ!!イケメンじゃん!!」


 湖の水面に映る自分の顔は髪がピンクのままだが、ポッチャリしていた丸顔がシュッとしており、目も幼さが少し残っているが綺麗な二重である。


 「これが前世なら隠キャからの陽キャへジョブチェンジだな」


 水面に写る自分の顔にニマニマしていると、湖から水泡がゆっくりと上がってくるのが見えた。


 「来たな、このやろう!!!」


 久しぶりのご対面である湖の主(俺視点)は、空中に飛び出すと『狂想の水槍ウォーター・スペア』を5本ほど撃ってくる。銛のような形状で、どちらが狩る側か示しているようだ。



 「こっちもそれなりに修行してるんだよ。『聖なる槍ホーリ・スペア』」



 『聖なる槍ホーリ・スペア』を5本分詠唱して相手の魔法と相殺させる。ただ、水の銛は光に当たるとすぐに消滅し、そのまま空中で静止している湖の主に光の銛が突き刺さる。5本すべてが命中しており、そのまま激しい音とともに主が湖に撃沈する。



 「うぅおお!!威力、ヤッッバ!!激変しすぎじゃね?」



 いままでの『聖なる槍ホーリ・スペア』なら相殺どころか、こっちの魔法が負けることを想定し、回避する姿勢を取っていた。力負けどころか、相手に傷を与えるほどの威力が保たれていた。


 「湖の主ぬし、完璧に油断してたな・・・」


 ド派手な飛び込み音を残し、湖に真っ赤な血が流れでる。どこぞのホラー映画さながらの映像である。索敵の範囲に血の臭いに寄せられたゴブリン達がきているのが分かる。


 『ステータス』


 名前:ゲイン・ヴァイス   

 性別:雄

 種族:ホワイト・ゴブリン・キング(亜種)

 適性:光魔法、火魔法、水魔法、体術、鍛冶技術、種族進化

 スキル:言語操作Lv 5、魔力操作Lv 5、体術Lv 4、光魔法Lv 5、火魔法Lv4、

     水魔法Lv4、氷魔法Lv2、料理Lv3、鍛冶Lv8、

     ゴブリン・ボイスLv1、種族進化Lv1

 特技:種族進化Lv1(1/100000)

 加護:ゴブリン道を進む者

 装備:サイン、魔鋼・ダガー



 なんだか色々と上がっているのだが、どちらかというと底上げされている身体能力と魔力が嬉しい。以前でも魔力が底をつくことは無かったが、魔力の総量が激増している。これなら今まで使えなかった魔法も行使できるかもしれない。そして、細かいスキルの内容からも鍛冶Lvが上がっていることが分かった。これなら新作るためにも今後は鉱石採取は必須だな。



 「『ゴブリン・ボイス』が気になるわけで」

 『ゴッギャゴキャ、キキ』(おまえ、どこのゴブリンだ?)

 『ゴオキイイ、キッキッキ』(おい、怪しいゴブリンだな)



 ヤバイ、ゴブリン語が理解できるようになってる・・・。


 『このデカブツが!!皆、やっちまえ』

 『『『『おう!!』』』』


 周辺のゴブリンに囲まれ、いままでなら奇声をあげて襲われるわけだが、明らかな剥き出しの敵意と言葉が理解できた。うん、いままでの嫌悪感は間違っていなかった。



 サックリと倒すと湖の主の回復薬として全てゴブリンを投げ入れる。投げ入れたそばからザバザバと水面が揺れ、どこぞの南アフリカの川みたいな状況にゾッとする。ただ、よくよく考えれば釣りで魚を食べる自分を想像して一気に食欲が減退した。


 「あ”ぁ〜っ!!完璧に失敗した!!!しばらく魚食べたく無いな」



 周囲の散策と身体能力の確認のために森を走り回る。想像以上に面白く、びっくりCG並みに樹々を蹴りながら縫うように走る。果物の採取も忘れず、途中であった熊の魔物は以前震え上がった相手だが、魔鋼・タガーですれ違いざまに首を撥ね上げた。相手の攻撃の軌道が容易にわかり、首筋にダガーを通すだけの作業だった。多分、斬られたことも気がつかなかったかもしれない。



 それから拠点に戻り、解体した熊肉を食べる。ほんとうなら寝かせたほうが美味しくなるという話だが、魔物肉だし、種族進化の影響なのか血肉への渇望に耐えられない。ガブリつくように食べた後はすぐに地下室で爆睡した。



 そんな日々の糧を得ながら自分の身体に感覚を馴染ませる作業を繰り返していた。

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