第22話 種族進化 その1
館を出て3日ほど経ち、無事にモンダク湖(初日に来た湖の名称)に到着した。久しぶりの湖は相変わらず荒れもせず、平和な水面は風で少し景色を揺らした。なんとなくマイホームに戻ってきた気持ちになる。
「ただいま」
天井はアントにぶっ飛ばされたままの状態で、壁も朽ちたのか、一部は崩れ落ちていた。ここまで来てしまうと修繕するくらいなら作り直したほうが絶対に良い。
「『
魔法で家の基礎から土壁まで立ち上げしておき、天井は木々を『ウィンド・カッター』で切り落とた上で枝払いまで行い、どんどん作り上げる。
「おぉう!!半日で前回と比較にならない出来とは素晴らしい」
自画自賛ではあるものの、前回は前世の知識で作成した拠点作りで、今回は魔法知識を基にしている。完成度に歴然とした差が出たのは、3ヶ月間ほど頑張った成果である。普通に『家』と呼べるレベルである。
「こうして見ると館も努力次第で作ることは可能なんだな・・・。前世よりも建築に関してはかなりラクなんじゃないだろうか、これ」
1LDKって呼んでも差し支えないだろう。立派な戸建て持ちになり、胸を張るゴブリン(俺)である。
「んじゃ、釣り竿4号も出来たし、早速行くかぁ〜」
館で鍛冶の傍らかたわらで作ったリールは自慢の出来だった。いくら知識があってもスキル補正がなければ作れない意欲作である。ジグさんはリールを見て「これは何ですか?」と尋ねたくらいだ。”リール”の使い意図が分からなければ、意味不明なのも理解できる。早速、良い感じの木の枝にリールを取り付け、昼食の素材取りに湖へ向かう。
「うん、爆釣である」
結構なレベルで入れ食いなので少し面白みにかけるが、自分の食料問題だけを考えるとかなり助かる結果ではある。
そして、地下室も作り始める。いそいそと土魔法で土間というには余りに広いスペースを地下に広げていく。これから『種族進化』を使うにしても自分の安全確保が保たれてなければ使えない。地下3階に設計し、一部からは地上の出入り口もしっかりと確保する。
落ち着いて湖周辺も確認ができたのでいよいよお待ちかねである。
「『種族進化』」
・・・ん?
種族進化を使いますか?
>YES >NO
どこの声だか分からないが脳内で響く。多分、俺にしか聞こえていないと思うが、これに声を出して応えているのを人に見られるとかなり痛い人認定される。
YES
念じるだけで進むのは中々良い感じである。神様、どうか光魔法と同じくらい素晴らしいものでありますように。
種族進化先
①ゴブリン
②サイレント・ディア
③鬼神(子)
④ジャイアント・ディア
⑤鬼神
⑥サキュバス・ロード
⑦アンクル・デーモン
・・・
怒涛の如く種族の名前が頭に流れこんでくる。最初がゴブリンなのは覚えているが(まさか出るとは思いもしなかった)、他には聞き覚えのあるものと無いものがあって・・・。やたら強そうな鬼神とか良い感じではあるが、(子)とか何だ?
ん?
なんか知っては行けない秘密のような気がしてきた。あまりそちらに気を捉われず、自分が目指す方向を考えたら良いか。そして、ヴァンパイアじゃなかったんだな、当主様。すげー失礼なことを初対面で言ってたのが今更判明する。あぁ、結構な黒歴史で恥ずかしい。
「④鬼神でお願いします」
種族進化Lvが不足しています
は”ぁ”、バカか!?なによ、それ?どんなクソ仕様だよ!!
キャンセル
>『種族進化』は一度行使するとキャンセルできません
詰んだ・・・。
これ絶対神様みて爆笑してるだろ?ガチで詰んだわ。ホワイト・ゴブリンから種族進化Lv3で進化できるリストを表示してください。
>どちらかっていうと失笑?
いらねぇ!!そんなコメント求めてないから!!!俺をヴァンパイアにしてほしい。
・・・
・・・
・・・
種族進化Lv3のリストをお願いします。
①オーガ(子)
②鬼人(子)
③ジャイアント・ディア
④ゴブリン・キング(亜種:子)
⑤デヘン・ボア(大)
選択肢が少なすぎだろ!!どんだけ徳ガチャ積ませ気よ!!?
特に選択肢としては、オーガ、鬼人は人型だろうし安心感はある。ジャイアント・ディアなら『アント』と同じで、いきなり四足動物になるなんて考えられん。剣握れないじゃん!!!それに人族の街に行きたいのに話できても四足歩行なら拒否られそうじゃん。デヘン・ボアも猪だから同じ理由で当然却下である。
・・・ゴブリン・キング(亜種:子)にとてつもない悪意が感じられる。というか、最初なんて「ゴブゴブゥ」しか言えなかったのに、このままゴブリン進化を続けるのがまるで”王道”みたいになってる。うぅうう・・・クソ仕様め。
どれほど時間が経ったのか自分でも把握できなくなってきた。安全な地下3階に籠もっていてほんとうに良かった。これが外ならガチで考えているうちにヤラレる可能性もある。
『早くしてください』
ちょっと待てよ。
『こちらは準備OKです』
だから、なんのだよ!!
『・・・言わせますか?』
・・・
ゴブリン・キング(亜種)でお願いします。
『④ゴブリン・キング(亜種:子)へ種族進化します』
体が青白く発光し、地下室の仄暗い室内を照らす。体の脈がどんどんと力強く弾み、脳内には複数の鐘の音が鳴り響く。
「ガァアアアーー!!!」
ぐgじゃあjb0い
とてもじゃないが立ってられない。すぐに膝をつき、地面と仲良しになる。冷んやりとしたはずの地面が自分の血で生温い温度が頬に届く。この出血量、すでにやばくない?ん・・・痛み耐性が増えたと自覚していたが、まったく役に立たないまま痛みがただ引くことだけを願う。
・・・
・・・
・・・
どれくらいの時間が過ぎたか。体を切り刻まれるような鋭い痛みが鈍痛に変わり、釘でも刺さっていたかのような痛みもハンマーくらいに収まってきた。頭のリソースを痛みについて考えるくらいに余裕はでてきた。
ふーふーふー
少しずつ痛みが引くのを覚え、深呼吸を意識する。横たわった姿勢はそのままで少しずつ痛みが引いていく身体に魔力と体力が底上げされることを願い待っていた。
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