第3話 いつもと違う帰り道
昼休み俺は教室で本を読んでいた。読書は俺の数少ない友達だ。ぼっちの昼休みのさみしさを和らげてくれる。でも本の内容はほとんど頭に入ってこなかった。
昨日のスカイプの事を考えていたからだ。緊張したしうまく話せないのはショックだ。うまく話せないのはわかっていることなのに話せないと凹む。
でも不思議ともうやめようとは思わなかった。今までならやっぱ俺にはできないと思ってやめていただろう。
俺は次にスカイプしたときはどうしようかと考えていた。
昨日は会話はがすぐ途切れ終わってしまった。すぐ終わらないためにはどうしたらいいだろうか。
話をしたらいいんだろうけど話すことがない。話したとしてもスラスラ話せなかったらキモいと思われすぐ切られてしまうだろう。
そんなことを考えていると
「ねえなに読んでるの?」
声が聞こえ顔を上げてみるとそこにはあやさんがいた。や、やべー…でも落ち着け俺。昨日スカイプで鍛えてきたじゃないか。その成果を見せる時だ。
とても鍛えたとは言えないほど短い会話だったのに俺はそう言い聞かせた。そして
「ほ、本…」
と昨日の成果をぶつけた。
「あはははははは!それはわかってるよ。何の本読んでるかってこと」
彼女はいつものように笑って言った。思ったことがある。それはあやさんに笑ってもらうと緊張が少し和らぐということだ。
相手があやさんじゃなくてもあるいは男でも和らぐのかどうかはわからないが。
「あ、あー、こ、これ…」
タイトルをスラスラ言うのは大変なので本のタイトルを見せた。
「あっ!『竜馬が行く』じゃん!あたしもこれ読んだことある!大好き!!」
「えっ、あ、あー、そっ、へー…」
謎の暗号のような言葉を返し、そしてあやさんが竜馬がいくを読んだことがあることに驚いた。
「あたしこの本の途中からが好きなんだよね。5巻くらいからかな?」
「そ、そう…と、途中から…りょ、竜馬が…活躍す…」
「ね!ね!それまでは竜馬あまり何もやってない感じがしてさ」
「う、うん。後半敵対してたさ、薩摩藩とちょ、長州藩が同盟を組むは、橋渡しをしたりして面白くなる…」
「そう!そう!!それでさ・・・」
それからどの位経っただろうか。20分は行ってないと思う。というかどれくらい時間が経ったかなんて覚えていなかった。
こんな感覚今まで味わったことがあっただろうか。いろいろな感情が体を駆け巡って今の気持ちをなんて表現したらいいかわからない。
でも無理やりでも言葉にするなら”嬉しい”がその感情に当てはまると思う。それもとびっきり最上級の。
その”約20分”になにがあったのか。多分会話をしていたのだと思う。普通の人からしたらたかが20分の会話だ。
でも俺は普通ではない。極度のコミュ障なのだ。
例えるなら逆上がりもできない自転車にも乗れない運動音痴が、サッカー選手を夢見てそれが叶いワールドカップに出場してしまったようなものだ。
眼がしらに熱いものがこみあげてくる。普通に会話ができるようになりたい。楽しく談笑してる陽キャがうらやましかった。何かすごく楽しそうに見えて。
ましてや好きな女の子と会話するなんて永遠に叶わないおとぎ話だと思っていた。「世の中にこんな幸せなことがあるのか」口に出したら恥ずかしい言葉を心の中で思いとどめた。
そしてその日学校からの帰り道はいろんな場所を見て回った。いつもはまっすぐ帰るだけなのに。
コミュ障克服完全マニュアル 導火線 @tekitou8116
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