マンソンは死ぬのだろうか?

 草食アングラ森小説賞で大賞をいただきました!!


 最初に今回のテーマが発表された時、「アングラ……割と得意ジャンルだな……」という感想が第一印象でした。ドラッグ・裏社会・スラム街……。普段の作風に割と近いジャンルなので、ストーリーの大筋はいつもと違うことをやりたい。よし! 虚無の地獄を書こう!

 これを書き始めたときは長期のモンハンハマりタイムのせいで全然小説を書いてなかったので、自分の間合いが取りやすい5000字ほどの話を考え始めます。

 とりあえず「サルドルは5分前に地獄に落ちた」というワードを最初に捻り出し、そこから話を作っていきます。下敷きとして考えた要素は、以下の三つ。


・理不尽と無意味

・ビガーケージス・ロンガーチェインズ(入れ子構造の地獄)

・労働はクソ


 サルドルのキャラクターを作る際に『取り返しがつかない』要素として指の骨を折らせたのは、僕がめちゃくちゃグロが苦手なのもあって逆に生々しい痛みを想像できるものを選んだからです。そこから指を使う趣味としてギターが選ばれ、マンソンという名前のインスパイア元になりました。

 元々手癖でサイバーパンクを書くつもりで途中まで進めていたのですが、途中で(この辺りはボカした方がいいな……)って思ってSF要素を若干削りました。これは書きたいテーマ的に現代的な話をやりたかったのもあり、結果的に味わい深くなりましたね……。


 彼らが行ったバイトの内容についてですが、最初に着想を得たのがルイス・サッカーの「穴」とニンジャスレイヤーの「フォ・フーム・ザ・ベル・トールズ」(女子高生収容所のエピソード)です。どっちも収容所と無意味な労働によって消費される若さの話なので、ここから話を膨らませていきました。

 肝心の仕事は所謂『無限の猿定理』ですね。猿がタイプライターをいつまでも叩き続ければ、いつかシェイクスピアの作品を打ち出す、というものです。これを延々と人力で試行すれば人は壊れるのでは? という発想から生まれた賽の河原の石積みです。一見意味がありそうな無意味、僕の潜在的な恐怖なんですよね……。


 次は物語に配置された小道具の解説。

 サルドルが吸っていたドラッグにアルカロイドを用いたのは、ドラッグの固有名詞を出さないためです。イメージ的にはダウナー系のドラッグなのですが、ここで固有名詞を出してしまうと作品そのものの無時代性が崩れそうな感じがしたんですよね。あとは文章に出した時の語感の良さやあまり使わないワードなことを加味して選びました。結果的にキャッチコピーに採用するくらい気に入ったワードになった……。


 なぜ作品内にラットを登場させたのかは、明確な理由が何個かあります。

 一つ目は閉塞感の象徴としての利用。この作品を書く直前に水曜日のダウンタウンを観ていたのですが、その中の「ラッキーアイテム脱出生活」という企画で首に鍵を付けたラットが出てきたんですよね。芸人が密室から脱出するために必要な鍵をゲットするために巣の外にラットを誘き出すシーンがあって、それにものすごく得体の知れない寂しさを覚えました。ラットにとっては巣から出たとしても外の部屋が密室なことは変わらない。これこそ入れ子構造の地獄だな……。ということで象徴としてラットを採用。(元々の企画はやっと脱出できて喜んでる中年のコンビが外の大雪を見て絶望するシーンが最高だから見て)

 二つ目は実験動物としての利用。最初はモルモットにしようと思っていたのですが、モルカーが流行っていたのとモルモットに掛かる実験動物の文脈が強すぎたのでラットに。ちょうど『ラットが死んだ』というボカロ曲をタイトルだけ知っていて、アングラっぽいな〜って所からの連想でラットにしました。

 マンソンの名前の由来は一見するとマリリン・マンソンですが、その元ネタであるチャールズ・マンソンも掛けています。囚人であり、アーティスト。ヒッピー文化ということでドラッグにも精通する彼の名前を冠することで、複数の意味を持たせることができた気がします。


講評のお礼と返事


謎のイートハーブさん:


『〜主催を狙っていただいたんだとは思うのですが、男同士のクソデカ感情本当に好きなんですよね……』


 主催特攻が刺さったぞ!

 謎のイートハーブさんといえば……ということで長髪イケメンを出したのですが、地獄の要素として出した指折りもリョナ要素として刺さった感じかな?って思うと強めのガッツポーズが出ますね……。すでに死んでいるからこそ綺麗だった状態を出せる、世捨て人になりたかった男……。


『構成に引っ掛かる点がなかったこと、小道具の使い方が秀逸だったこと〜』


 めちゃくちゃ褒めていただいてる!!!!(ニコニコ)

 ずっとモンハンをやってたからかめちゃくちゃ久しぶりに小説書いたせいで手癖だらけなんですけど、構成と小道具は普段の創作でもめちゃくちゃ意識してる部分なんで褒めていただけてよかった……ってなってます。

 いろんな要素でストーリーを補強してるんですけど、特にネズミと主人公たちを重ねた部分は自分でも会心の出来だな〜という思いがあります(自画自賛)



謎の白猫さん:


『「サルドルは5分前に地獄に落ちた。」はい100点〜!!』


 ありがとうございます!!

 冒頭部分を一番最初に思いついたので、個人的な名書き出しランキングの上位に入る作品になりましたね……。「5分前」と「地獄」の組み合わせの奇妙な感じとかは意図したものなので、褒めてもらえるとニコニコします!


『エンタメとしてのアングラのひとつの最適解〜』


 すごい褒めてもらっちゃったな……。

 エンタメ書きとしては身に余る栄誉なのですが、今までエンタメしか書けなかったコンプレックスみたいなものが確かにあって、暗い話書いて新規軸目指すか……と考えた上での投稿でした。でも僕はエンタメくんから逃れられないみたいなのでこれからも仲良くしていきたいと思います!



謎のポメラニアンさん:


『この閉ざされた世界から生まれる発想は「どうこの状況を逸脱するか」であり、それは彼らの中で闘争なのですが、では勝利とは何か? 友人の選んだ(選ばざるを得なかった)道筋は果たして勝利と呼べるのか?〜』


 僕が今回の後書きで一番語りたかったのはこの部分です。

 僕の中でアングラとは『世間的に良くないとされているものの見方を変える』ことだと思っていて、主人公がサルドルに最初に伝えた「外に出ていい暮らしをする」という人生は『世間的に良いとされているもの』なんですよね。サルドルは安宿で暮らすことによって厭世的な生活をしていたのですが、空想上の敵に怯えて燻る生活はある種平和であった、という考えが僕の中にありました。本当の『悪意』は一見煌びやかな、輝かしいものに巧妙に隠されている。そういう部分を書きたくてこの作品を投稿したので、謎のポメラニアンさんが感じた違和感は意図的に配置したものですね。彼らは前を向いた時点で詰んでいた。

 そして、サルドルが仕事中に取った選択は正しかったのか。これも「前を向くこと」と同じく、彼はあの状況で咄嗟にそれしか選べなかった、ということです。主人公が食事を取らないことで衰弱していくのは目に見えているはずなのに、彼はドラッグで自我を失う親友を見たくなかった。世捨て人のような反社会的なことをしながらも、サルドルの根底にはある種の潔癖症めいた感覚があった。それが彼の死の遠因になってしまった……。

 詳しい解説は野暮かもしれませんが、僕の中ではそういった考えがあった上での作品でした。読んでいただきありがとうございます!!



 大賞選考と総評でもめちゃくちゃ褒めていただけて口角が無限に上がり続けています。読んでいただきありがとうございました!!


講評↓


https://note.com/kusawotabenai/n/n8fdf579d65ab

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